猛暑に加えて雨の少ない日が続く夏、茶畑では葉のしおれや葉焼けだけでなく、根の活力低下や新梢の伸び悩みも心配になります。とくに定植して間もない幼木は、成木に比べて根が張る範囲が狭く、土壌の乾燥による影響を受けやすいため、早めのかん水と細かな観察が欠かせません。
気象庁の観測によると、浜松では2026年8月1日から10日までの降水量が合計0.5mmにとどまり、期間中の最高気温は37.9℃に達したそうです。TEA ENERGYが確認している静岡県西部の幼木園でも、かん水が必要な状況です。その一方、同園内で太陽光パネルの下にマルチを張った部分は、雨がしばらく降っていなくても土の湿りが保たれ、パネル外より良好な生育が確認されています。
この違いは、営農型太陽光が猛暑や少雨への対策になり得ることを示唆する、興味深い現場観察といえるでしょう。ただし、現時点では土壌水分や地温を測定した比較試験ではなく、太陽光パネルとマルチを組み合わせた区画で得られた観察結果にとどまります。「パネルを設置すれば、かん水が不要になる」「必ず生育が良くなる」と結論づけることはできません。
今回の記事では、猛暑の茶畑で営農型太陽光に期待できる働きと、導入・管理の際に見落としてはいけない注意点について整理します。
猛暑と少雨が茶樹に与える影響
茶は永年作物であり、一度植えれば数十年という長い期間にわたって栽培が続きます。そのため、夏の干ばつによる影響は、その時点の見た目だけで判断できません。水分不足によって夏から秋の生育が弱まると、枝葉や根に十分な養分を蓄えられず、翌年の一番茶にも悪影響が残る可能性があります。
静岡県農林技術研究所茶業研究センターは、夏季の高温少雨時には、かん水によって茶樹の生育を健全に保てるとしています。茶園の1日当たりの水消費量は夏季で約5mm(降水量換算)とされ、土壌pF値2.3がかん水開始の一つの目安です。茶園にスプリンクラーがある場合には、1回25~30mmを7日程度ごとにかん水することが望ましいと紹介されています。さらに、夏季のかん水によって秋季の生育量が1.6倍になったという試験結果も掲載されています。
もっとも、これはすべての茶園にそのまま当てはまる一律の処方とは言い切れません。必要な水量とかん水の間隔は、土質・傾斜・樹齢・根の張り方・マルチの有無・直前の降雨などによって変わります。とくに幼木園では、畝間が湿って見えても、株元の根域が乾いていることが珍しくありません。表面の色だけでなく、株元の土を確認し、可能であれば土壌水分計も使って判断することが大切です。
営農型太陽光に期待できること1 強い日射を和らげる
営農型太陽光は、茶樹の上部に間隔を空けて太陽光パネルを設置する仕組みです。パネルがつくる影は時間とともに移動し、茶園全体を一日中暗くするものではありませんが、日中の強い直射日光を一時的に遮ってくれます。
日射が弱まれば、葉面や地表が受け取る熱も少なくなると考えられます。これにより、急激な温度上昇を抑え、茶樹が受ける高温ストレスを和らげられる可能性があるでしょう。
中国の茶園を対象とした2026年の研究では、太陽光発電設備を設置した区画で、夏の日中に摘採面付近の温度が露地の対照区より低くなったそうです。日中の相対湿度も高まり、2023年と2024年の年間生葉収量は対照区をそれぞれ15.3%、9.3%上回ったと報告されています。
ただし、この研究は中国の成木茶園で、単軸追尾式のパネルを使った事例です。品種、気象、設備条件が異なるため、日本の幼木園へ数値をそのまま当てはめることはできません。パネルの高さ、幅、向き、設置間隔によって、影の動きも変わります。期待すべきなのは「一定の冷却効果が保証されること」ではなく、適切に設計した部分遮光によって、猛暑時の極端な環境を緩和できる可能性です。
営農型太陽光に期待できること2 土壌からの水分蒸発を抑える

茶園の土は、日射と高温、風によって水分を失います。パネルの影で地表に届く日射が減れば、地温の上昇と土壌表面からの蒸発を抑えられる可能性があります。
今年、静岡県西部の太陽光パネル下の幼木園では「雨が降らない日が続いてもマルチ下の土が湿っていた」という状態が確認されています。路地の茶園はマルチ下であっても乾いていたため、この日射の低減が関係した可能性も否定できません。現場で見られた良好な生育は、少なくとも次の要因が組み合わさった結果である可能性があります。
- パネルの影によって地表へ届く日射が減った
- 地温の急上昇と土壌からの蒸発が抑えられた
- マルチによって水分の損失がさらに抑えられた
- 日射や温湿度の変化により、茶樹の蒸散が抑えられた可能性がある
一方、元の土壌水分、地形、排水、苗の個体差なども生育に関わる要因です。太陽光パネル単独の効果と、マルチとの相乗効果を分けて考えるには、測定と比較が必要になります。
営農型太陽光に期待できること3 幼木の活着と夏秋季の生育を支える
定植後の幼木は、根域がまだ十分に広がっていません。乾燥が長引けば吸水できる範囲が限られ、成木より早く水分不足に陥ることがあります。強光、高温、乾燥が重なる環境をパネルの部分遮光で和らげ、マルチや適切なかん水で根域の水分を保てれば、幼木の活着と枝葉の成長を支えられる可能性があります。
夏から秋に伸びる枝葉は、翌年の生産を支える樹体づくりにも大きく関わります。パネル外の幼木で葉が小さい、伸長が止まる、葉色が薄くなる、下葉が落ちるといった症状が見られる一方で、パネル下で新梢の伸びが続いているなら、記録する価値の高い差といえるでしょう。
写真だけでなく、樹高、新梢長、枝数、株幅、欠株率などを同じ位置・同じ間隔で記録すれば、翌年以降の設備設計や栽培管理に使えるデータになります。
注意点1 パネルは、かん水設備の代わりではない
パネル下で土が湿っていたとしても、当然ながら水を新たに供給しているわけではありません。すでに土壌が乾き切っていれば、影をつくるだけでは根が吸える水は増えません。また、表面が湿って見えても、根のある深さまで水分が届いていない場合があります。
反対に、パネルの真下は降雨が直接入りにくく、「雨が降ったのに根域は乾いている」という状態も起こり得ます。パネル上に落ちた雨は端から流れ落ちるため、雨の入り方は均一ではありません。
猛暑時には、パネル下であることを理由にかん水を止めず、株元の土壌水分を確認してください。マルチを使用する場合も、かん水した水が根域へ均等に届いているかの確認が欠かせません。点滴かん水を使うなら、吐出口の詰まりや位置ずれも点検しましょう。
注意点2 雨水の集中と排水を設計する
パネルは、雨を端部などの限られた位置へ集める屋根のような面でもあります。まとまった雨が降ると、端から水が集中して落ち、特定の畝だけが過湿になったり、土が削られたりするおそれがあります。
少雨の時期には水を集められることが利点に見えても、台風や線状降水帯による強雨時には、逆の問題が生じかねません。パネルの傾きと継ぎ目、畝の方向、園地の傾斜、排水路を一体で考え、雨だれの位置に侵食や水たまりが生じていないかを降雨後に確認することが重要です。
営農型太陽光は、夏の干ばつだけを想定して設計する設備ではありません。猛暑、少雨、豪雨、強風のいずれにも対応できる配置と維持管理が求められます。
注意点3 遮光しすぎれば生育や収量に影響する
茶は日射を利用して光合成を行います。猛暑時に影が役立つからといって、パネルを多く設置し、年間を通じて強く遮光すればよいわけではありません。光が不足すれば、枝葉や根の生育が弱まり、収量へ影響する可能性があります。
とくに営農型太陽光では、発電量を増やしたいという発電側の条件と、作物に必要な光を確保したいという農業側の条件を調整しなければなりません。農林水産省も、営農型太陽光では作目に適した日射量、農作業を行える高さと間隔、雨水や排水、周辺農地への影響などを事前に確認するよう示しています。
茶園では、品種、樹齢、畝の方向、年間の栽培計画、乗用型摘採機などの作業動線を確認し、農業を起点にパネルの配置を決めることが基本です。夏の一場面だけでなく、一番茶期から秋整枝、翌年の萌芽までを通した設計が必要です。
TEA ENERGYがご提案している営農型太陽光は、発電事業ではなく営農を主体として考え、茶樹の生育を阻害しないよう遮光率は50%前後に設定しています。
注意点4 湿度、病害虫、作業環境の変化を観察する
パネル下では、日射だけでなく、風の流れや葉が乾く速さも変わることがあります。乾燥を抑えることは利点ですが、葉が濡れた状態が長く続く場所では、病害の発生条件が変わる可能性もあります。パネル下と外側で、新芽の伸び、葉色、病斑、害虫の発生に偏りがないかを観察してください。
農作業についても同様です。パネルの高さと支柱間隔が十分でも、支柱の位置によって旋回や薬剤散布がしにくくなる可能性があります。配線や接続箱を農機が傷つけない配置、点検者と営農者が同時に作業する場合の連絡方法も、導入前に決めておく必要があるでしょう。
少雨時に、今すぐ確認したい五つの項目
幼木園で少雨が続いているときは、次の順番で確認すると状況を整理しやすいでしょう。
- 株元の根域まで湿っているか、複数地点で土を確認する
- パネル下、パネル端、パネル外で乾き方に差があるかを見る
- マルチの下へ、雨水やかん水が実際に入っているか確認する
- 新梢長、葉色、しおれ、葉焼け、欠株を定点撮影する
- かん水日、かん水量、降雨、土壌水分を記録する
8月中旬は深耕を行う時期でもありますが、静岡県茶業研究センターは、干ばつを受けている茶園や、その後に降雨が期待できない茶園では深耕を行わないよう注意を促しています。根を傷めることで水分吸収が悪化し、干ばつ被害を大きくするおそれがあるためです。暦だけで作業を決めず、園地の水分状態を優先してください。
また、葉面散布を行う場合、強い日差しの中では濃度障害が生じることがあります。散布は日差しの強くない朝夕に行い、使用する資材の登録内容と希釈倍率を守ることが重要です。
まとめ 営農型太陽光は「水を節約できる設備」ではなく、茶園環境を整える選択肢
営農型太陽光には、強い日射を一時的に和らげ、葉面や地表の温度上昇と土壌水分の蒸発を抑える働きが期待できます。静岡県西部の幼木園で見られた、パネル下とマルチを組み合わせた場所の土が晴天が続いていても湿り、生育がパネル外より良好だったという状況は、その可能性を実感させる現場観察です。
一方、パネルは水そのものを供給しません。遮光のしすぎ、降雨の偏り、雨水の集中、排水、病害虫、農作業への影響にも注意が必要です。営農型太陽光を猛暑対策として生かすには、かん水やマルチと組み合わせ、農業を起点に設備を設計し、導入後も茶樹と土壌の状態を測り続けることが欠かせません。
TEA ENERGYでは、茶農家が使用する農業機械や畝の方向、栽培する茶種、遮光管理を踏まえた営農型太陽光を提案しています。基本的に企業が発電事業を担い、茶農家は営農を担当し、売電収入の一部を営農者へ還元する仕組みです。
所有する茶園で営農型太陽光を検討できるか、猛暑・少雨への対応を含めて相談したい方は、営農型太陽光発電をご覧いただくか、お問い合わせページよりご相談ください。
参考資料
- 気象庁「浜松(静岡県)2026年8月(日ごとの値)」
- 静岡県農林技術研究所茶業研究センター「茶業研究センターに寄せられた技術的な問合せへの対応」
- 農林水産省「営農型太陽光発電について」
- 農林水産省「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック(2025年度版)」
- Agriculture誌 “Effects of Photovoltaic-Integrated Tea Plantation on Tea Field Productivity and Tea Leaf Quality”
※本記事は2026年8月11日時点で公表されている資料と、静岡県西部の幼木園における現場観察を基に作成しています。パネル下とパネル外の生育差は、現時点では測定値を伴う比較試験の結果ではありません。営農型太陽光による温度、土壌水分、品質、収量への影響は、地域、品種、樹齢、土壌、パネル配置、遮光率、マルチ、かん水方法などによって異なります。
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