有機抹茶の生産を考えるとき、最初に見直したいのが茶樹の品種です。どのような病気が出やすいか、いつ摘採できるか、どのような色や香味のお茶をつくるか。長く栽培する茶では、苗を植える前の選択が、その後の管理や販売に関わります。
その選択肢として注目したいのが、農研機構が2026年4月21日に研究成果を公表した新品種「りんめい」です。炭疽病と輪斑病への抵抗性に加え、収量や製茶品質の面で特徴を持ち、有機栽培や輸出向けの茶づくりへの活用が期待されています。[1]
一方、お茶の品種には得意な条件と注意すべき点があります。有機抹茶として出荷するには、茶園での栽培に加え、加工や認証の準備も欠かせません。
この記事では、「りんめい」の公表資料を読み解きながら、有機碾茶への転換、茶園の改植、営農型太陽光と組み合わせる場合の検討点を整理します。
※情報確認日:2026年10月14日。本文の番号に対応する出典リンクは末尾に掲載。
2026年に研究成果が公表された「りんめい」とは
「りんめい」は、2025年8月21日に品種登録された茶品種です。登録番号は第31113号。2026年の研究成果発表と、品種登録の時期は異なります。[1][2]
農研機構の資料から、有機抹茶づくりを検討する際に押さえたい特徴を整理すると、次のようになります。
| 確認項目 | 公表されている特性 |
|---|---|
| 摘採時期 | 「やぶきた」とほぼ同時期の中生(なかて) |
| 炭疽病への抵抗性 | やや強 |
| 輪斑病への抵抗性 | 強 |
| 赤焼病への抵抗性 | 中 |
| もち病への抵抗性 | やや弱 |
| 碾茶への加工適性 | 簡易碾茶の試験で、製茶品質・色合いが「やぶきた」より優れ、「せいめい」と同等と評価 |
出典:[1]。抵抗性の区分は、農研機構の評価に沿った表記です。
特に見落としたくないのが、炭疽病や輪斑病に強くても、すべての病害虫に強いわけではないという点です。自分の茶園で問題になっている病気がもち病なら、その発生履歴と防除方法を含めて導入を判断する必要があります。
新品種を選ぶ際は、「病気に強い」という一言で決めず、病気の種類ごとに確かめることが大切です。
「収量2.5倍」と碾茶の試験結果をどう考えるか
「りんめい」の発表では、「やぶきた」の約2.5倍という収量が紹介されています。この数字は、試験条件と一緒に考えることが重要です。
比較は、育成地の鹿児島県枕崎において、化学合成殺菌剤を使用せずに栽培した試験の、一番茶から三番茶までの合計収量に基づいています。公表表の数値は2014~2018年の平均です。資料には、病害に弱い「やぶきた」の収量が、慣行防除をした場合より少ないと考えられる旨も記されています。[1・表1]
したがって、この倍率をそのまま「全国の有機碾茶園で収量が2.5倍になる」「売上や利益も2.5倍になる」と読み替えることはできません。化学合成殺菌剤を使用しない試験という条件だけでは、有機JAS認証を取得した栽培での比較ともいえません。
碾茶についても、2025年の一番茶を用いた簡易碾茶の加工試験であることが重要です。試験では、遮光率85%の寒冷紗で18日間被覆した新芽を、蒸して揉まずに乾燥させています。[1・表5]
この結果は、碾茶用途を検討する根拠になります。ただし、被覆日数や加工条件を、すべての地域や工場で使える推奨条件と受け取らないようにしましょう。
導入時には、自園の生葉で試作し、取引先に色・香り・味・用途への適合性を評価してもらう段階を設けたいところです。研究上の評価を、実際に販売できる品質へつなげるための確認になります。
有機抹茶への転換は、茶園・工場・販売先で計画する
品種の検討と並行して、「どこで碾茶に加工し、誰に販売するか」を決めておくことをおすすめします。
抹茶は、被覆栽培した新芽を蒸し、揉まずに乾燥させた碾茶を、石臼などで微粉末にしたものです。煎茶を粉にすることとは、原料の製造工程が異なります。[3]
茶園側が生産量を増やしても、摘採した日に工場で受け入れられなければ、計画どおりの製品にはつながりません。有機の原料を扱う場合は、工場での区分管理や認証範囲も確認が必要です。
静岡県が2026年1月に更新した案内では、輸出に取り組む茶工場と売り先の茶商が連携し、必要な茶葉の量を明らかにする「拠点化計画」と、有機栽培に適した品種への改植を推進しています。[4]
この考え方を個々の茶園に落とし込むなら、苗の発注前に、少なくとも次の点を相談しておきたいところです。
- 飲用、ラテ、製菓など、どの用途の抹茶原料を目指すか
- 色や香味について、どのような品質を求められるか
- 一番茶・二番茶など、どの茶期の原料を出荷するか
- 工場の受入可能日、処理量、搬入方法はどうなっているか
- 有機認証や輸出向けの検査について、誰が何を担当するか
- 取引数量や価格を、どのような条件で決めるか
茶園更新の時点で販売先が具体的になっていれば、品種や被覆方法を選ぶ基準も明確になります。
自分の茶園に合う品種を選ぶための三つの視点
「りんめい」を有力な候補にしながら、既存品種や他の候補品種とも比較しましょう。ここからは、公表資料を踏まえた導入検討の進め方です。
1.地域と園地の条件を優先する
同じ地域でも、日当たり、風通し、排水、霜の出方、病害の履歴は園地ごとに異なります。静岡県の有機栽培マニュアルも、園地条件と病気への強さを品種選定の重要な要素として挙げています。[5]
まずは、過去の栽培記録を見直し、「どの区画で、どの時期に、何が問題になったか」を整理してみてください。苗を変えることで対応できそうな課題と、排水や管理方法の改善が必要な課題を分けて考えやすくなります。
2.摘採と加工の繁忙期を分散する
「りんめい」のような中生品種を導入するときは、手持ちの品種との摘採時期の関係も確認します。摘採機や作業者、工場の受入能力に合わせて、品種構成を考えるためです。
例えば、中生の「りんめい」に対し、「せいめい」はやや早生の品種です。[1] 「せいめい」については、2025年5月に、農研機構が栽培・加工技術の標準作業手順書「鹿児島県版」を公開しました。有機栽培や現地実証も扱われています。[3]
品種名だけで比較するより、地域別の栽培・加工情報がどこまで整っているかも確認すると、導入後の管理を組み立てやすくなります。摘採日の差は地域や年の気象条件でも変わるため、地域の試験場や普及指導員の情報と照合しましょう。
3.有機栽培で必要な作業を見積もる
病害抵抗性があっても、除草、施肥、害虫への対応まで不要になるわけではありません。
例えば、除草機が入れる畝間か、資材を運び込めるか、幼木期にかん水できるか。新品種の特性とともに、作業を継続できる条件を確認することが必要です。
候補品種が複数ある場合は、少面積から導入し、収量だけでなく作業時間や製品評価も比較する方法が考えられます。その際は、品種・樹齢・土壌条件なども記録しておきましょう。比較する条件の違いを踏まえて、結果を読むためです。
茶園更新では「植え替える範囲」と「収入が減る期間」を決める
有機栽培への転換には、既存の茶樹を活用する方法と、新植・改植する方法があります。すべての茶園で植え替えが必要というわけではありません。[5]
また、茶樹を深く切り戻して若返りを図る「台切り」と、苗を新たに植える「改植」は異なります。品種そのものを変更する場合には、台切りだけでは対応できません。[6]
改植を検討する際は、以下の順序で計画を具体化すると、準備の抜けを減らせます。
| 段階 | 決めておきたいこと |
|---|---|
| 更新前 | 現在の収量・品質・管理費を整理し、改植する目的と区画を決める |
| 苗の手配前 | 品種、苗の本数、納期、利用条件、有機栽培での使用条件を確認する |
| 定植前 | 土壌・排水・かん水、畝の方向、作業道、機械の旋回場所を検討する |
| 幼木期 | 除草、かん水、防風、仕立てなどを誰が担当するか決める |
| 出荷準備 | 碾茶加工の受入先、認証の範囲、試作品の評価方法を確認する |
| 面積拡大前 | 実際の生育、品質、作業負担、収支を振り返る |
大面積を一度に改植する場合と、数年に分けて進める場合では、資金繰りと作業負担が変わります。既存園からの収入をどこまで残すか、幼木園の管理に何人必要かを、年ごとの計画にしておきましょう。
収支計画には、苗代や造成費に加え、幼木期の管理費、補植、被覆資材、認証・検査、加工・保管の費用も入れましょう。販売数量と単価については、期待する場合だけでなく、見込みを下回る場合も試算しておくと判断しやすくなります。
2026年度の国の実施要領には、茶の改植等や、改植等の後に未収益となる期間の経費の一部を支援する仕組みが記載されています。[6] 対象要件、募集時期、発注・着工の扱いを、事前にJAや自治体などの窓口へ確認してください。
幼木期と有機JASの転換期間を混同しない
有機抹茶を目指すうえで、特に計画を間違えやすいのが時間軸です。
茶樹が育って摘採できるようになる時期と、有機JASの要件を満たした茶を出荷できる時期は、別に考えます。
有機農産物のJASでは、茶のような多年生植物について、原則として、有機農産物としての最初の収穫前3年以上、規格に定められた生産方法で管理することが必要です。単に「苗を植えて3年たった」という意味ではありません。[7]
静岡県のマニュアルは、早期成園化と安定生産を目指す方法として、定植1~2年目は慣行栽培し、3年目から有機栽培へ転換する体系を推奨しています。[5] これは地域の栽培上の提案であり、有機JASの全国一律の必須手順ではありません。
最初から有機の管理を行うか、幼木期を経て転換するかによって、管理費や出荷計画は変わります。転換開始前の栽培期間を、そのまま有機管理の期間として数えることはできません。
一方、ほ場の履歴などによる規格上の例外もあります。具体的な出荷可能時期は、土地の使用履歴、苗の生産履歴、使用資材、管理記録を示したうえで、登録認証機関に確認するのが確実です。[7]
品種の導入と同時に、認証・記録・加工の準備を進める
「有機栽培に適する品種を植えたこと」と、「有機抹茶として表示・販売できること」は同じではありません。
国内で農産物や加工食品に「有機」「オーガニック」などと表示するには、有機JASの認証・格付・表示の仕組みに対応する必要があります。[8]
有機JASは、あらゆる農薬の使用を一律に禁止する制度でもありません。病害虫対策は規格に沿った方法を基本とし、所定の条件下で使用できる農薬が定められています。使用する場合は、茶への農薬登録、使用方法、有機JAS上の適合性をそれぞれ確認します。[7][8]
苗についても、購入先や品種名だけでなく、育苗中の資材使用などを確認できる資料をそろえておきましょう。規格には苗等の選択条件も定められているため、入手が難しい場合を含めて、発注前に認証機関へ相談することをおすすめします。[7]
加工段階では、有機と非有機の原料の混入防止、機械の清掃、原料や製品を識別する記録が重要です。農林水産省の「有機加工食品検査認証制度ハンドブック」は2026年6月版が公開されており、こうした管理の確認に利用できます。[9]
生葉を出荷する農家、碾茶を製造する工場、仕上げ・粉砕を行う事業者の間で、次の記録をつなげる形を考えておきたいところです。
- どの区画で、どの品種を、いつ摘採したか
- その区画で、どの資材を、いつ使ったか
- 生葉をどの工場へ、何kg搬入したか
- どの製造ロットに加工され、どの出荷先へ渡ったか
必要な認証の区分や範囲は、担当する工程によって異なります。農家と加工先が別々に準備を進める前に、一連の工程を整理して確認しましょう。
「りんめい」の苗は、入手時期と利用条件を確認する
新品種への改植では、栽培計画と苗の供給時期を合わせることが欠かせません。
農研機構の2026年4月の発表では、原種苗に当たる穂木の提供を同年5月末頃から予定すると案内しています。[1] これは、茶園へ定植できる苗が、その時期から希望数量だけ購入できることを示したものではありません。
導入を検討する場合は、農研機構や種苗事業者に、現在の供給状況、苗の規格、本数、納期を確認してください。改植する面積を確定する前に、実際の調達見通しを立てることが大切です。
また、「りんめい」は登録品種です。正規の供給元から調達し、利用許諾の条件を確認しましょう。特に、自園での挿し木による増殖や、苗・穂木の譲渡を行う場合は、許諾の要否と手続きを事前に確かめる必要があります。[2][10]
営農型太陽光と組み合わせるなら、品種・被覆・作業空間を一緒に考える
有機碾茶への転換に合わせ、営農型太陽光の導入を検討する場合も、茶園更新の段階から計画を合わせることが有効です。
ティーエナジーでは、お茶に特化した営農型太陽光の取り組みとして、有機栽培に適した碾茶品種・栽培方法の共有や、専用架台を利用した二重被覆の遮光棚、保有する茶刈機の高さと幅に合わせた設備設計を提案しています。[11]
改植前であれば、畝の方向と支柱の位置、摘採機の動線、被覆資材を展開・収納する場所を、一つの図面で検討できます。栽培する品種と目指す茶の品質を先に整理し、それを支える設備を考える進め方です。
ただし、パネルによる影と、摘採前に資材をかける被覆栽培では、光が遮られる時期や場所が異なります。今回紹介した「りんめい」の試験結果は、営農型太陽光のパネル下での収量・品質を実証したものではありません。[1]
そのため、導入後の評価では、パネル配置と被覆方法を記録し、園内の光環境、茶樹の生育、茶期ごとの収量、加工後の品質を確認することをおすすめします。可能であれば比較できる区画を設け、被覆期間や管理方法を見直す材料を蓄積しましょう。
有機JASは生産方法に関する認証です。太陽光設備を設置すること自体で、有機認証を取得できるわけではありません。栽培・認証・設備の計画を、それぞれの条件に沿ってつなげることが重要です。
有機抹茶づくりを、次の茶園経営につなげるために
「りんめい」の登場は、有機抹茶を目指す茶園に、新たな品種の選択肢をもたらしました。その特性を生かすには、自園の病害や作業条件、加工先の設備、販売先が求める品質との相性を確かめる必要があります。
茶園更新は、品種を替えると同時に、作業しやすい園地、幼木期を支える資金計画、認証の記録、安定した出荷先を整える機会にもなります。まずは、現在の茶園で困っていることと、将来どのようなお茶を生産したいかを書き出してみてください。
ティーエナジーでは、有機碾茶への転換や営農型太陽光に関心のある茶農家の皆様へ、取り組みの内容や導入の考え方をご案内しています。
茶園の所在地・面積、現在の品種と樹齢、使用している農業機械、改植を希望する時期などが分かると、相談を具体的に進めやすくなります。「品種の更新と被覆棚の整備を一緒に考えたい」「有機抹茶に取り組むための準備について知りたい」という方は、ティーエナジーのお問い合わせページからお気軽にご相談ください。
出典・参考資料
以下は2026年10月14日に確認した一次資料です。品種の試験結果と制度上の要件は各資料に基づき、導入の順序や比較方法、収支計画については、それらを踏まえた本記事の提案として記載しています。
- 農研機構(2026年4月21日)
「病害抵抗性・多収・高品質を兼ね備えた中生の茶品種『りんめい』―輸出や有機栽培の拡大に貢献―」
品種の特性、病害抵抗性、表1の収量試験、表5の簡易碾茶試験、原種苗提供の予定を確認。 - 農林水産省・品種登録データ検索
登録品種「りんめい」(登録番号31113)
品種名、登録番号、2025年8月21日の登録日を確認。 - 農研機構(2025年5月13日)
「日本茶海外輸出に資する緑茶用新品種『せいめい』栽培・加工技術標準作業手順書『鹿児島県版』」公開のお知らせ
地域別の栽培・加工技術資料の整備、有機栽培に関する内容、碾茶・抹茶の説明を参照。手順書全編は無料の利用者登録が必要。 - 静岡県(2026年1月30日更新)
「有機農業の推進について」
輸出向けの拠点化計画と、有機栽培に適した品種への改植の推進を確認。 - 静岡県
「茶の有機栽培マニュアル」(PDF)
主に本文6ページ「園地の選定」、8ページ「品種の選定」、14ページ「改植」、15ページ「幼木園の管理」を参照。補助金の記載には令和7年度の情報が含まれるため、本記事の2026年度の支援制度説明には資料6を使用。 - 農林水産省・令和8年度関係通知
「持続的生産強化対策事業実施要領」別紙6「茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進」(PDF)
「第4 その他/1 茶の改植等について」の改植・台切り・未収益支援などの定義と事業内容を参照。PDFの41~43枚目付近。 - 農林水産省
「有機農産物の日本農林規格 JAS 1605:2024」(PDF)
5.1「ほ場」、5.4「ほ場に使用する種子又は苗等」、5.10「ほ場又は栽培場における有害動植物の防除」などを参照。 - 農林水産省
「有機食品の検査認証制度」
有機表示、規格、認証機関、資材などの案内を確認。 - 農林水産省(2026年6月版)
「有機加工食品検査認証制度ハンドブック」(PDF)
第3章の生産行程管理、非有機原料との混合防止、機械・器具の清掃と記録などを参照。 - 農研機構
「品種の利用許諾について」
種苗の生産・販売等に関する利用許諾の案内を参照。 - TEA ENERGY株式会社
「営農型太陽光発電」
有機栽培に適した碾茶品種・栽培方法の共有、専用架台を活用した遮光棚、農業機械に合わせた設備設計の紹介を確認。
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