「日本茶には海外需要があると聞くけれど、自分たちの産地やお茶の良さを、どう伝えればよいのだろう」。輸出向けの生産を考える茶農家にとって、品質づくりと並んで気になる課題ではないでしょうか。
産地名、品種、被覆、製造方法。
有益な情報は茶園や工場に数多くあります。しかし、海外の買い手が知りたいのは、それらの言葉に加えて「どんな味なのか」「どう楽しめるのか」「どこで買えるのか」ということです。
2026年9月、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)は、米国向けの新たな日本茶コンテンツ「OCHA SHOP CHANNEL」を発表しました。生産者の言葉を購入先につなぐこの取り組みを手がかりに、産地が今から準備できる発信を考えます。[1]
米国向け新施策がつなぐ産地の物語と購入先
JFOODOは、JETRO内に設置され、海外消費者に向けた日本産食品のプロモーションを担う組織です。[2]
2026年9月17日の発表によると、「OCHA SHOP CHANNEL」では、生産者や事業者が産地、栽培・製法、淹れ方、食との組み合わせなどを紹介します。本編はYouTubeを中心に、Instagramの短い動画、Podcast、ウェブサイトなどでの発信が予定されています。
併せて、JFOODO公式のAmazon Store Frontを全面リニューアルし、紹介した商品を購入できるページへの案内を強める計画です。対象は抹茶に限らず、ほうじ茶、煎茶、玉露、玄米茶などにも広がっています。
公式発表では、初回配信とAmazonページの更新は2026年10月下旬予定とされています。 ここでは、その発表内容を基に施策の考え方を紹介します。[1]
この仕組みから産地が学べるのは、発信の出口を用意することです。茶園や生産者を知った人が、紹介されたお茶を選び、購入できるところまで案内する。動画や写真の制作と、販売ページの整備を一緒に考える必要があります。
抹茶への関心を商品選びにつなげる
JFOODOの2026年度の取組方針は、米国で日本産緑茶への関心が高まる一方、正確な情報や信頼できる購入先に課題を感じる消費者が増えていると整理しています。日本産としてのブランドを強め、抹茶を入口に、ほかの茶種の消費拡大も図る方針です。[3]
産地としては、「日本のお茶です」という説明を出発点に、商品ごとの特徴まで伝えることが大切になります。
例えば、同じ抹茶でも、湯で点てて味わう場面、ミルクに合わせる場面、菓子に使う場面では、買い手が確認したいことが変わります。用途を絞って紹介すれば、味わいや扱い方を具体的に説明しやすくなるでしょう。
ほうじ茶や煎茶についても、専門的な分類だけでなく、香り、味、淹れる手順、食事との組み合わせを示せます。ただし、米国を一つの好みでまとめることはできません。カフェ向けなのか、家庭で飲む人向けなのかを決め、実際の反応を確かめながら伝え方を調整しましょう。
産地情報を買い手に役立つ言葉へ変える
生産者にとって当たり前の情報ほど、初めて日本茶を選ぶ人には説明が必要です。専門用語をなくすのではなく、その意味を短く添えると伝わりやすくなります。
地名と生産工程の関係を明確にする
海外向けの紹介では、まず国、都道府県、地域の順で場所を伝えると整理しやすくなります。例えば、英語では「Shizuoka, Japan」と記し、その後に市町名や茶園名を続ける方法があります。
その際は、茶葉を育てた場所、碾茶や荒茶を製造した場所、仕上げ加工・粉砕・包装をした場所を確認しましょう。複数産地の原料を配合した商品では、その実態に合う説明が必要です。
茶園の紹介写真を使う場合も、販売商品との関係を明らかにします。「この農家のお茶」と紹介しながら、その商品に当該農家の原料が含まれているか分からない状態では、買い手の誤解につながります。生産者紹介と商品紹介をつなぐためにも、出荷記録や製造ロットを販売担当者と確認しておきたいところです。
品種や被覆を味わいの説明につなげる
品種名や被覆日数は、産地の特徴を示す材料になります。ただし、数字や名称だけで商品の味が伝わるとは限りません。
「この品種でどのようなお茶を目指したのか」「収穫前の日射をどう管理したのか」「出来上がった商品を飲むと、どんな特徴があるのか」という順序で説明すると、栽培と飲用体験の関係が見えてきます。
味わいについては、同じ品種だから毎年同じになると決めつけず、販売するロットを実際に試して確認しましょう。ラテ用途を勧めるなら、使用するミルクや配合をそろえて試飲すると、説明の根拠を持ちやすくなります。
| 伝えたいこと | 発信を具体的にするための情報 |
|---|---|
| 産地の特徴 | 栽培地、地域の景観、製造・加工を行う場所 |
| 品種へのこだわり | 品種名、選んだ理由、販売商品の味わい |
| 被覆や栽培管理 | 実際の作業、時期、目指す品質、作業写真 |
| おすすめの用途 | 湯で点てる、ラテにする、料理・菓子に使うなどの試用結果 |
| 生産者の考え | 課題に対して選んだ方法、その理由、現在も工夫していること |
| 継続して買える安心感 | 販売先、在庫、販売時期、問い合わせ先 |
この表は、すべてを一度に公開するためのものではありません。まず情報を手元にそろえ、消費者向けの短い紹介と、取引先向けの詳しい説明に使い分けましょう。
お茶を飲む場面まで提案する
新しいAmazon Store Frontでは、「Morning Focus」「Afternoon Reset」「Weekend Ritual」など、生活の場面から商品を選ぶ構成が予定されています。[1]
産地の発信でも、「どんなときに飲んでもらいたいか」を考えると、写真や説明の内容を決めやすくなります。
例えば、家庭向けの抹茶なら、茶碗で点てる場面と、氷を入れたラテをつくる場面を、それぞれ紹介できます。煎茶なら、急須で淹れる手順と、食事に添えた一杯を見せる方法があるでしょう。
その際、買った人が再現できるように、茶や湯の量、温度、時間、使う道具を商品に合わせて示します。英語のレシピでは、販売先に応じて摂氏と華氏などの併記を検討し、計量単位も確認してください。
英語の商品紹介も、味と用途を短く組み合わせると整理しやすくなります。例えば、実際の試飲で特徴を確認した商品なら、次のような文案が考えられます。
A smooth matcha with a mellow umami taste. Enjoy it whisked with water or in a latte.
口当たりがなめらかで、穏やかな旨みのある抹茶。湯で点てても、ラテにしても楽しめます。
これは表現の組み立て例です。実際の商品に合わせて、味の言葉と推奨用途を調整します。生活の場面を提案するときも、集中力の向上などの身体への効果を断定する表現とは区別しておきましょう。
生産者の言葉と実際の作業を組み合わせる
産地の物語を伝えるには、実際の判断や作業を紹介すると具体性が生まれます。
「有機栽培に取り組んでいます」と言うだけでなく、雑草をどのように管理しているのか、品種をなぜ選んだのか、収穫時期をどう判断しているのかを説明する。作業の写真があれば、言葉だけでは伝わりにくい手間や工夫も見せられます。
最初の動画は、例えば30〜60秒程度の短い紹介から始める方法があります。これは産地側で取り組む場合の構成例であり、JFOODOの指定形式ではありません。
- 茶園と生産者を映し、場所と名前を紹介する。
- 一つの作業を取り上げ、その理由を話す。
- 完成したお茶と、おすすめの飲み方を見せる。
- 商品ページや問い合わせ先を案内する。
撮影時は、横長の茶園全景に加え、スマートフォンで見やすい縦長の作業動画も残しておくと使い分けられます。英語を話すことが負担なら、日本語で説明し、取引先と内容を確認して英語字幕を付ける方法でもよいでしょう。
大切なのは、字幕の翻訳後にも、産地名、品種名、工程、認証の内容が正しいかを確認することです。撮影年月や場所も記録し、過去の写真を現在の生産状況と取り違えないように管理します。
有機や環境配慮は具体的な事実で伝える
有機栽培や営農型太陽光発電は、産地の取り組みを説明する題材になります。その価値を伝える際は、認証、実際の作業、確認できる成果を整理することが欠かせません。
有機表示は認証と輸出条件を確認する
米国農務省(USDA)の説明では、日米の有機同等性の条件を満たす有機JAS認証製品は、追加の有機認証を取得せずに米国で有機として販売できる仕組みがあります。ただし、対象製品にはNOP輸入証明書が必要で、米国の表示要件も満たす必要があります。[4]
そのため、販売予定の商品がどの認証の対象か、加工・包装を含めた扱いがどうなっているかを、認証機関や輸出・販売担当者と確認しましょう。有機転換中の原料を、認証済みの商品と同じように説明することも避ける必要があります。
生産者が用意したいのは、認証の対象範囲が分かる資料と、栽培・出荷記録です。販売側がそれらを確認できれば、商品ページや商談資料の説明にも一貫性を持たせられます。
太陽光パネル下での栽培と製造時の再エネ利用を分ける
営農型太陽光の茶園では、農業と発電を同じ土地で続ける様子や、架台を生かした被覆作業などを紹介できます。どの区画で、どのように栽培した原料が使われているかを示すことが、具体的な産地発信になります。
一方、パネル下で育てた茶葉だからといって、製茶工場の電力まで再エネになっているとは限りません。「再エネで製造した抹茶」「CO₂排出量を削減した抹茶」と表示するなら、それぞれの表現に対応する情報が必要です。
米国連邦取引委員会(FTC)のグリーンガイドは、漠然とした環境優良表示について具体的な根拠を求めています。また、発電した電力の再生可能エネルギー証書をすべて売却した場合、その発電分を自らの再エネ利用として主張すべきではないと説明しています。[5]
産地の発信でも、栽培の実態、製造時のエネルギー利用、環境価値の帰属を確認しておきましょう。「SDGs」「サステナブル」という言葉を添えるだけでなく、何を行っているのかを示す方が、買い手も内容を理解しやすくなります。
生葉や碾茶を出荷する農家も発信に関われる
自社で小売商品を持たない農家も、出荷先の茶商や加工業者に産地情報を渡すことができます。生葉や碾茶を仕入れる側が、その先のバイヤーや消費者へ説明するための材料になります。
まず用意したいのは、生産者の紹介、茶園の写真、品種・収穫時期・栽培方法、出荷ロットが分かる資料です。写真の使用範囲や農家名の掲載可否も決めておけば、販売側が使いやすくなります。
ただし、農家の段階で最終商品の味や販売量まで確定させる必要はありません。仕上げや配合、粉砕などを担当する事業者と情報を合わせ、最終商品の特徴として何を説明できるかを確認しましょう。
卸売の商談では、物語に加えて、取引条件を示す資料も必要です。例えば、次の項目を整理しておくと、具体的な相談に進みやすくなります。
- 扱う原料・商品の形態と、想定する用途
- 提供可能な数量、出荷時期、最小注文量
- 荷姿、保管条件、サンプル提供の方法
- 品種、産地、認証、ロット管理の情報
- 取引先が求める検査への対応状況と担当窓口
残留農薬や食品表示など、輸出先の要件を満たす確認も別途必要です。JETROの米国向け茶輸出ガイドでは、食品施設登録、残留農薬、表示、輸入手続きなどを整理しています。実際の輸出準備は、輸出者・輸入者と役割を分担して進めましょう。[6]
JFOODOの支援を活用する前に確認したいこと
2026年度の参加案内では、米国向けの販路、輸出できる体制、現地で流通できる製品、供給余力などが条件として示されています。また、加工用途ではない一般消費者向け製品が優先されています。[7]
生葉や碾茶を出荷している農家の場合は、商品化や輸出を担う取引先と一緒に、参加条件を確認する進め方が考えられます。
参加費は無料ですが、Amazonなどへの出品費用や、施策によって生じるサンプル提供・渡航等の費用は事業者負担です。オールジャパンの取り組みであり、各社の個別プロモーションを行う事業ではない点も確認しておきましょう。
募集ページに記載された申込期限は、2026年12月31日です。[7] 参加を検討する際は、最新の募集要項と、自社の商品が対象になるかをJFOODOへ確認してください。
発信と販売をつなぐために最初にそろえるもの
産地発信を始める際は、まず一つの商品、または一つの出荷先を対象に、必要な情報をそろえると進めやすくなります。
| 準備するもの | 内容 |
|---|---|
| 産地紹介 | 生産者、栽培地、品種、作業の特徴を短くまとめる |
| 写真・動画 | 茶園全景、実際の管理作業、製造工程、完成商品をそろえる |
| 商品説明 | 確認した味わい、用途、淹れ方、保管方法を示す |
| 根拠資料 | 認証、栽培・出荷記録、検査結果などを整理する |
| 購入・商談の窓口 | 対象商品へのリンク、米国での入手方法、問い合わせ先を確認する |
| 更新の担当 | 価格、在庫、収穫年、掲載写真を誰が更新するか決める |
紹介動画からは会社のトップページだけでなく、そこで紹介した商品のページへ案内すると、購入まで進みやすくなります。米国への配送可否、送料、届くまでの目安も、販売側に確認しておきたい情報です。
公開後は、再生回数に加えて、商品ページへのアクセス、問い合わせ、サンプル依頼、注文などを、把握できる範囲で確認しましょう。数値を見るときは、在庫切れや価格変更などの影響も考慮します。閲覧が増えても購入につながらない場合は、用途説明や販売条件の分かりやすさを見直す手がかりになります。
海外へ伝えられる特徴を茶園づくりから考える
産地の発信を充実させるには、栽培や製造の段階から「何を目指し、何を記録するか」を考えることが役立ちます。品種の選定理由、被覆管理、収穫時期、試飲で確認した特徴などがそろえば、販売側も商品を説明しやすくなるためです。
TEA ENERGYは、消費市場の変化を踏まえた小売・卸売の取り組みを進めています。また、茶園向けの営農型太陽光発電では、有機栽培に適した碾茶品種・栽培方法の共有、専用架台を活用した遮光棚、農業機械の寸法を考慮した設備設計を提案しています。[8][9]
こうした茶園づくりを検討する際も、栽培できる条件、作業のしやすさ、販売先が求める品質を一緒に考えることが大切です。営農型太陽光の下でどのような管理を行い、どのような原料を生産するのか。その実態を記録することが、将来の産地発信にもつながります。
「海外需要を見据えて有機碾茶への転換を考えたい」「茶園更新と営農型太陽光の導入を一緒に検討したい」という方は、TEA ENERGYへご相談ください。茶園の所在地、面積、現在の品種、栽培方法、出荷先や今後の希望などをお知らせいただくと、具体的な検討を進めやすくなります。
※本記事は2026年10月24日までに確認した公表資料を基にしています。JFOODOの施策日程・募集条件、輸出・表示に関する要件は、実際に参加・販売する時点の最新情報をご確認ください。
出典・参考資料
- JETRO「JFOODO『OCHA SHOP CHANNEL』を始動」2026年9月17日
新コンテンツの内容、配信媒体、初回配信・Amazon Store Front更新の予定、飲用場面からの商品選び。 - JETRO「日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)」
組織の位置付けと海外消費者向けプロモーションの役割。 - JFOODO「2026年度 米国における日本茶プロモーション取組方針」2026年8月(PDF)
信頼できる情報・購入先に関する課題、日本産ブランドの強化、抹茶以外の茶種を含めた需要拡大。 - USDA「International Trade Policies: Japan」2026年1月更新
日米の有機同等性、適用条件、NOP輸入証明書、表示要件。 - FTC「Environmental Claims: Summary of the Green Guides」
一般的な環境優良表示と再生可能エネルギー利用に関する説明。2012年版ガイドの要約であり、2026年の新制度を紹介した資料ではありません。 - JETRO「茶の輸入規制、輸入手続き(米国)」
食品施設登録、残留農薬、表示、輸入手続き等。項目ごとに調査時点が異なるため、実務では米国当局の最新情報も確認してください。 - JFOODO「2026年度プロモーション参加事業者募集のご案内 日本茶・米国」
参加条件、一般消費者向け製品の優先、費用負担、申込期限。 - TEA ENERGY「小売・卸売販売」
消費市場の変化を踏まえた商品・販売方法の考え方。 - TEA ENERGY「営農型太陽光発電」
有機碾茶の品種・栽培方法、遮光棚、農業機械に合わせた設備設計。
お問合わせ
コメント