近年、海外の抹茶バイヤーから「Nutty(ナッティー)な抹茶が欲しい」という要望を聞く場面が増えています。「ナッティー」は、少なくとも抹茶の等級や統一された評価用語として定められた言葉ではありませんが、その言葉から連想されるのは、アーモンド、カシューナッツ、ごま、栗、ピスタチオのように感じられる、まろやかで香ばしい風味です。
実際、「Nutty」が指す意味は多種多用で、生のナッツを思わせる穏やかな香りを指す場合もあれば、強めの火入れによるロースト香、オーツミルクやアーモンドミルクと合わせたときの風味まで含めて使われることがあります。
この記事では、国内の研究資料と海外の販売事例を基に、ナッティーな抹茶の正体、ラテ需要との関係、生産者が品種・被覆・製造で取り組める内容についてご紹介します。
海外における抹茶需要の全体像は、先に「世界で抹茶はどう広がっている?輸出データと活用方法から見る2026年の最新トレンド」もご覧ください。
市場で使われる「ナッティー」を三つに分けて考える
ナッティーという言葉を理解するには、どこから生まれた風味なのかを分けて考える必要があります。海外の商品説明と商談上の使われ方を基に、次の三つに分けてみました。
| バイヤーがいう「ナッティー」 | 主なイメージ | 生産・加工との関係 |
|---|---|---|
| 抹茶にもともとある香り | 生アーモンド、ごま、カシューナッツ、豆 | 品種、栽培、碾茶製造、仕上げ、保存などが複合的に関係する |
| 加熱で強まる香ばしさ | 炒ったナッツ、栗、カカオ、ビスケット | 乾燥や火入れ条件の影響を受ける。強すぎると色や覆い香を損なう可能性がある |
| 飲み方によって生じる、または強調される印象 | オーツ、アーモンド、ピスタチオ、クリーミーさ | 牛乳・植物性ミルク、糖、温度、配合量によって印象が変わる |
農研機構では、抹茶らしい香りに重要な低沸点成分の一つとして、ナッツ様の香りを持つ「2-メチルブタナール」を挙げています。調査対象となった飲用抹茶34点と加工用抹茶12点の双方から検出されているため、ナッツ様香は強い焙煎を施した商品だけの特徴ではなく、抹茶本来の複雑な香りを構成する一要素と考えられます。
一方、海外向けの通販・卸売サイトでは、通常より高い温度で火入れし、炒ったナッツや穀物の香りを強調した業務用商品も「Nutty Matcha」として販売されています。つまり、同じ言葉とはいえ、バイヤーが求めるものは一つではないということです。
宇治の高級抹茶とは異なる品質なのか
日本で高品質な抹茶を評価するときは、鮮やかな色、強い旨味、少ない渋味、なめらかな口当たり、被覆によって生まれる覆い香などが重視されてきました。そこへ「ナッティー」という海外の表現が加わると、従来の価値とは異なる注文に見えるかもしれません。
しかし、両者が品質的にまったくの別物なのかというと、そういうわけではありません。
米国の日本茶専門店Kettlの業務用カタログでは、京都・京田辺の抹茶に「ナッツバター、アーモンド」、宇治・五ケ庄の「さえみどり」に「くるみ」、「うじひかり」に「マカダミア」といったテイスティングノートが付けられています。さらに、八女の一番茶や濃茶向けの商品にも、ピスタチオ、炒り栗、落花生などの表現が見られます。
これは、宇治の抹茶が変わったというより、日本では「旨味」「覆い香」「まろやかさ」などと説明してきた複雑な香味を、海外の買い手が身近な食材の言葉で細かく表している側面があります。その一方で、カフェや製菓向けには、ミルクや糖に負けないロースト感を意図的に強めた商品も見られます。
したがって、生産者が確認すべきなのは「ナッティーか、伝統的な高品質か」という二者択一ではありません。生のナッツのような甘い香りなのか、火入れの香ばしさなのか、抹茶単体とラテのどちらで評価するのかを具体化することが先です。
なぜラテ市場で求められやすいのか
2026年上半期の緑茶輸出額は、前年同期から220億円増え、農林水産物・食品の輸出重点品目の中で最大の増加となりました。農林水産省は、欧米やASEANにおけるラテ・スイーツ用の抹茶を含む粉末状茶の需要拡大を要因の一つに挙げています。
ラテでは、抹茶をそのまま点てる場合とは条件が変わります。牛乳の脂肪やたんぱく質、植物性ミルク固有の香り、砂糖の甘さ、提供温度などが重なり、抹茶の渋味や香りの感じ方も変化します。緑茶抽出液と牛乳を100℃で15分間加熱したモデル試験では、乳たんぱく質と茶のポリフェノールが結合することも確認されました。ただし、試験条件は一般的な抹茶ラテの調製方法とは異なるため、結果をそのまま市販ラテの官能特性へ当てはめることはできません。
このため、香ばしく、甘く、クリーミーに感じられるナッツ様の香りは、ミルク系飲料の風味とつながりやすく、消費者にも説明しやすいと考えられます。ただし、「ラテの普及がナッティー需要を生んだ」と直接証明した統計や研究は、現時点では確認できませんでした。ラテ需要の拡大と海外の商品説明を合わせると、その可能性が高いのではないか……という段階です。
また、アーモンドミルクやオーツミルクは、商品そのものがナッツ・穀物の香りを持ちます。買い手が「ナッティー」と評価した風味が、抹茶単体にあるのか、レシピ全体で生じたのかも切り分けなければなりません。
ナッツ様の風味はどこでつくられるのか
抹茶の最終的な香味が決まるのは、畑だけでも工場だけでもありません。品種、土壌・施肥、被覆、摘採時期、蒸熱、碾茶炉での乾燥、選別、仕上げの火入れ、合組、粉砕、保存までがつながって最終的な味になります。
1. 品種と被覆が、旨味と香りの土台をつくる
被覆によって日射を制限すると、茶葉の色や成分組成が変化し、碾茶らしい旨味や覆い香の形成につながります。静岡県が5品種を対象に行った直がけ被覆試験では、各品種で遮光率が高いほど新芽のテアニン含有率が高まり、なかでも「つゆひかり」は高い値を示します。
ここで注意したいのは、テアニンは旨味に関係する成分であり、「旨味が強いほど必ずナッティーになる」という意味ではないことです。緑茶の火入れに関する研究では、2-メチルブタナールなどの揮発性カルボニル化合物が、遊離アミノ酸のストレッカー分解によって生成する可能性が示されています。それでも、旨味という味と、ナッツ様という香りは別の感覚として評価する必要があります。
2. 碾茶の乾燥が香りを形づくる
蒸した茶葉を揉まずに乾燥する碾茶製造は、抹茶に「火香」をつける重要な工程です。中国・安徽農業大学の研究グループが2022年に発表した試験では、碾茶炉による乾燥が香気成分の形成に大きく影響し、青海苔様の香りに複数のピラジン類、ジメチルスルフィドなどが寄与すると報告されました。日本の品種・設備・製造条件で同じ結果になるとは限りませんが、乾燥方法が香りを左右することを示す参考になります。
生葉の状態が良くても、蒸熱や乾燥の条件が合わなければ、狙った香りを安定させるのは難しくなります。生産者と碾茶工場が、摘採から搬入までの時間、葉の状態、乾燥条件、完成した碾茶荒茶の官能評価を共有することが重要です。
3. 仕上げの火入れで香ばしさを調整する
碾茶荒茶の仕上げでは、選別、乾燥・火入れ、合組などを行い、製品としての品質を整えます。加熱によってピラジン類などの香ばしい成分が生じるため、条件次第ではナッツ、栗、カカオのような印象が強まる可能性があります。
しかし、温度を上げれば上げるほど高品質になるわけではありません。過度な加熱は、鮮やかな緑色や新鮮な香り、覆い香とのバランスを崩すおそれがあります。一般的な碾茶の乾燥・仕上げ火入れと、香ばしさを意図的に強めた商品設計は区別して考える必要があります。
生産者だけで最終香味を完成させようとせず、碾茶工場、仕上げ業者、茶商、バイヤーと試作条件を共有するのが現実的です。
生産者が今からできる五つのこと
1. 「どんなナッティーか」を言葉と見本で確認する
商談では、次の項目を確認します。
- 生アーモンドやカシューナッツのような穏やかな香りか、炒った栗やカカオのような火入れ香か
- 抹茶だけで評価するのか、牛乳・オーツミルク・アーモンドミルクなどに混ぜて評価するのか
- 1杯に使う抹茶量、ミルク量、糖の種類、提供温度
- 緑色、旨味、苦渋味、香りの強さのうち、何を優先するか
- 有機認証、残留農薬基準、ロット量、価格、供給時期などの条件
形容詞だけでは、産地が同じでも評価が食い違います。できれば基準となる現物サンプルと、合格・不合格の両方を用意してもらいましょう。
2. 用途に合う品種を小区画で比べる
「ナッティーになる品種」が公的に認定されているわけではありません。そのため、まずは碾茶適性、被覆適性、色、旨味、収量、病害抵抗性を基準に候補を選び、同じ加工条件で比較する方法が実務的です。
| 品種 | 公的資料から確認できる特徴 | 検討時の注意 |
|---|---|---|
| つゆひかり | 静岡県が外観・から色、収量、碾茶適性を評価。5品種の直がけ被覆試験でテアニン含有率が最も高い傾向 | ナッツ様香を保証する品種ではないため、実需者評価が必要 |
| おくみどり | 静岡県が外観・から色、収量を評価 | 晩生の特性や摘採・製造計画との整合を確認する |
| さえみどり | 静岡県の試験で碾茶の香気・滋味が優れる傾向 | 苗の確保や地域適性、摘採時期を確認する |
| せいめい | 農研機構が被覆栽培や抹茶等の高品質緑茶への適性、強い旨味、少ない渋味、鮮やかな緑色を示す | 苗の確保と地域条件、摘採時期を確認する |
| しずゆたか | 多収性と良好な生育が期待される静岡県育成品種 | 静岡県は碾茶適性を「調査中」としており、現時点で確定的に推奨しない |
植え替えは長期の投資です。市場で使われる一つの表現だけを理由に全面改植せず、複数品種を小区画で育て、薄茶・無糖ラテ・加糖ラテで官能評価を行うのが望ましいでしょう。
3. 被覆条件を記録し、味と結びつける
被覆開始日、摘採日、資材の遮光率、被覆段数、日射、気温、葉温、生葉収量をロットごとに記録します。可能であれば無被覆区や慣行区も残し、同じ製造条件で比較します。
記録があれば、「今年はナッティーだった」という感覚と、栽培・気象条件との関係を検証できます。海外バイヤーへ継続供給する際の再現性の説明にも役立ちます。
4. 碾茶工場・仕上げ業者と小ロット試作する
同じ生葉でも、蒸熱、乾燥、火入れ、合組によって香りは変わります。生産者側で栽培条件を整えたうえで、加工側と条件を一つずつ変え、色と香りのバランスを確認します。
とくに火入れを強くする試験は、従来品と分けた小ロットで行うべきです。狙った香ばしさだけでなく、ラテにしたときの色、後味、保存後の香りまで確認します。
5. バイヤーが使うレシピで最終確認する
抹茶単体の審査で合格しても、現地のカフェで使うと印象が変わります。牛乳と植物性ミルク、無糖と加糖、ホットとアイスで最低限の比較を行い、評価表を共有します。
ジェトロも、海外市場では「抹茶であれば売れる」という段階ではなくなりつつあり、バイヤーの商品選定基準が高度化していると報告しています。差別化された価値提案と安定供給に加え、相手のレシピまで含めて商品を設計することが重要です。
営農型太陽光を、品種と被覆の試験基盤にする
高品質な碾茶生産では、摘採前の被覆が重要です。営農型太陽光の架台を、太陽光パネルを支えるだけでなく、被覆資材を展張する棚としても使えるよう設計すれば、発電設備と被覆棚を一体的に活用する方法を検討できます。
TEA ENERGYでは、乗用摘採機の高さと幅を考慮した架台を設計し、その架台を碾茶栽培の遮光棚として使う仕組みを提案しています。つゆひかり、おくみどり、せいめいなど、碾茶適性が公的資料で確認できる品種を候補とし、地域条件と用途に合わせて選定する考え方です。そのうえで、パネルがつくる日常的な部分遮光と、摘採前に被覆資材で行う遮光を分けて管理します。
もちろん、営農型太陽光を導入すれば自動的にナッティーで高品質な抹茶になるわけではありません。導入時には、次の順序で設計することが大切です。
- 海外バイヤーが求める用途と香味を決める
- 地域に適した碾茶用品種を選ぶ
- パネル配置と被覆資材を合わせた光環境を設計する
- 畝ごとの日射、葉温、生育、収量、成分、官能品質を記録する
- 碾茶工場・仕上げ業者と試作し、実際のラテで評価する
営農型太陽光について詳しくは、「碾茶に適した品種と遮光環境を考える:営農型太陽光発電による持続可能な茶栽培の可能性」と「営農型太陽光発電」のページもご覧ください。
よくある質問
Q. ナッティーな抹茶とは、焙煎した抹茶のことですか?
必ずしもそうではありません。抹茶にもともと含まれるナッツ様香を指す場合、火入れで強めた香ばしさを指す場合、ミルクと合わせた飲料全体の印象を指す場合があります。買い手に具体的な香りと評価方法を確認してください。
Q. 被覆を強くすれば、ナッティーになりますか?
断定はできません。被覆は色や旨味、覆い香の形成に関係しますが、最終的なナッツ様香は品種、気象、摘採、乾燥、火入れ、合組、保存などの影響も受けます。被覆条件だけでなく、加工条件まで含めた比較試験が必要です。
Q. どの品種を植えるのが正解ですか?
単一の正解はありません。静岡県内であれば、つゆひかり、おくみどり、さえみどり、せいめいなどが碾茶生産の候補になりますが、ナッツ様香が必ず出るわけではありません。地域適性、収量、病害、摘採時期、加工先、バイヤーの用途を合わせて判断します。
まとめ 海外の言葉を、茶園の設計条件へ翻訳する
「ナッティーな抹茶」は無視できない商談上のキーワードになりつつあります。しかし、現時点で統一された定義や、「ナッティー指定のバイヤーが何%増えた」と示す公的統計は確認できません。公開されている海外の商品構成と商談現場から、需要の兆候を読み取っている段階です。
大切なのは、流行語をそのまま栽培目標にしないことです。求められているのが自然なナッツ様香なのか、強い火入れ香なのか、ラテにしたときの香ばしさなのかを確認し、品種、被覆、碾茶製造、仕上げをつないで小ロットで検証する必要があります。
TEA ENERGYでは、お茶に特化した営農型太陽光の設備設計、碾茶用品種や被覆方法、海外販路を見据えた栽培についてご相談を受け付けています。被覆棚として活用できる架台で碾茶栽培を検討したい方は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。
参考資料
- 農研機構「抹茶特有の香りに重要な低沸点成分」
- Xiao et al., “Determining the effects of tencha-ro drying on key volatile compounds in tencha” (Journal of Food Science, 2022)
- 水上裕造「緑茶の香りの特徴」『におい・かおり環境学会誌』2015年
- 原利男・久保田悦郎「火入茶の揮発性カルボニル化合物」『日本食品工業学会誌』1973年
- 川上美智子・山西貞「焙焼、釜炒り操作による茶香気の形成」『日本農芸化学会誌』1999年
- 静岡県茶業研究センター「茶業研究センターに寄せられた技術的な問合せへの対応」
- 静岡県茶業研究センター「品種と被覆を組み合わせたテアニン増強技術」
- 農研機構「せいめい」品種詳細
- 農林水産省「緑茶の種類について教えてください。」
- ジェトロ「上半期の農林水産物・食品輸出額は過去最高の8,977億円」
- ジェトロ「大阪で商社商談会を開催、商談で見えた抹茶輸出の新局面」
- Chen et al., “Effects of protein on green tea quality in a milk-tea model during heat treatment” (Journal of Dairy Science, 2024)
- Kettl “Wholesale Matcha & Houjicha Powder For Service”
- Mukoh Matcha “Nutty Matcha”業務用商品ページ
※海外事業者の商品説明は、2026年8月30日時点で市場に使われている表現を確認するための事例です。公的な品質区分、効能、需要量を示す資料ではなく、掲載内容や販売状況は変更される可能性があります。
※本記事は2026年8月30日時点で確認できる公表資料に基づきます。品種の選定、被覆、製茶、営農型太陽光の設計は、地域の気象、圃場条件、加工設備、関係法令、許認可を確認したうえで個別に検討してください。
お問合わせ
コメント