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煎茶から碾茶へ。猛暑適応と「抹茶×海外需要」に備える実装手順(後編)

前編では、猛暑年にやぶきたが不安定化しやすい背景を、水ストレスと樹冠面温度(葉温)という「測れる指標」によってまとめました。
その根拠として、熱画像を用いた研究で、樹冠面温度が高い品種ほど水ストレスが著しいこと、そしてやぶきたは夏期の樹冠面温度が高く水ストレスが大きい品種の一つ
として記載されている点を確認しました。

後編は、そこから一歩進めて煎茶から碾茶(抹茶原料)へ移行する手順を、現場で再現できる形に落とし込みたいと思います。


煎茶から碾茶へ。猛暑に適応しながら「抹茶×海外需要」に応える設計

ここでは「なぜ碾茶なのか」を、需要ではなく営農の構造から解説していきます。
最初に押さえるべきなのは、碾茶は被覆が前提となっており、環境条件を設計対象にしやすいという点です。

碾茶は「被覆前提」だから、環境を扱える余地がある

農林水産省によると、碾茶(抹茶の原料)は収穫前に被覆資材で茶園を2〜3週間程度覆った覆下茶園から摘採し、蒸熱後に揉まずに乾燥して製造する製品であると説明されています。
同じ説明の中で、碾茶を茶臼などで微粉末化したものが抹茶であることも明記されています。

この説明で重要になるのは、碾茶とは品質設計として遮光(被覆)を行う作型だということです。
つまり、猛暑年に問題となりやすい直射・葉温上昇・乾燥ストレスに対して、現場が介入できる余地が相対的に大きくなるということが言えるのです。

ただし、この段階では「碾茶は猛暑に強い」と断定はできません。
言えるとすれば、被覆という介入手段が作型に組み込まれているため、ピークストレスを下げる設計の余地があるという点だけです。

被覆は「樹冠温度」に影響し得る

被覆(遮光)と樹体の状態の関係については、茶業研究報告において被覆期間の違いが茶樹の生育と夏期の樹冠面温度に及ぼす影響について言及されています。
この研究報告は、遮光が「香味」だけでなく、夏の樹体ストレス(少なくとも樹冠面温度という観点)にも関係し得ることを示唆します。

ただし、碾茶栽培の際の茶樹への被覆はあくまで一番茶期のみであり、夏に被覆することはほとんどありません。そこで被覆と同様に樹体ストレスを下げる効果が期待されるのが、営農型太陽光です。

被覆資材のような高い遮光率はありませんが、夏のピーク時の直射日光を防ぎ、より自然に近い状態で樹冠温度を改善する効果が期待されています。


煎茶→碾茶の移行で失敗しないための実装ステップ

弊社が取り扱っている営農型太陽光は、設備建設の前に既存の茶樹を抜根して更地化し、設備完成後に新しい設計で植え直す前提となっています。

したがって、まず考えるべきは「既存園の調整」ではなく、ゼロから設計する移行手順です。

以下は、失敗の原因になりやすい順に、実装ステップとしてまとめます。

ステップ1:最初に「栽培ゴール」を固定する

まず、碾茶(抹茶原料)として、どの市場に出すのかを決めることが重要です。

例としては「業務用で安定供給を優先する」なのか、「上位グレードで小ロットから始める」なのかで、栽培設計は大きく変わります。

このゴールが曖昧だと、後工程の品種選定も施肥も管理強度も揺れ、成園化までの数年が「迷走期間」になりがちです。

ステップ2:設備条件から「光環境」を先に設計する

営農型太陽光では、当然のことではありますが露地より日射量・日照時間が少なくなるため、「樹勢が落ちない設計」が最上流になります。

ここで重要なのは、単に「暗くなる」ではなく、季節・時間帯での光の入り方(影の動き)を前提に、栽培側が無理をしない設計に寄せることです。

この工程を飛ばすと、後でどれだけ管理を頑張っても、樹勢不足・芽数不足として問題が出やすくなります。

ステップ3:品種は「樹勢の強さ」を最優先で選ぶ

営農型太陽光の下での新植前提で考えた場合、品種は「碾茶としての品質」より先に、遮光環境で樹勢を維持しやすいかが最重要になります。

なぜなら、日照が減る条件で芽数・葉量・回復力といった基礎体力が不足してしまうと碾茶の栽培以前に収量の土台が作れないからです。

静岡県内では樹勢も強く収量も多い「つゆひかり」「しずゆたか」が人気です。実際、「つゆひかり」に関しては碾茶としての実績も豊富なので安心感があります。

ただ、より安定させるのであれば候補品種をいきなり一つに絞らず、2〜3品種で分散しておくほうが安全です。

特に新植は後戻りコストが大きいので、最初から「分散=保険」を組み込むと、のちの意思決定が速くなります。

ステップ4:有機にするかを「時間軸」で決める

有機は、海外需要の強さという点で魅力があります。

一方で、有機は慣行に比べて管理の難易度が上がり、成園化まで時間がかかり得るため、「いつから有機管理に入るか」を設計する必要があります。

ここで制度として重要なのは、有機JASの「転換期間」です。

農林水産省の資料では、多年生作物は最初の収穫前3年以上、有機的管理(化学合成肥料・農薬を原則使わない等)を行う必要があると整理されています。

また、同資料では、一定条件を満たす場合に「転換期間中有機農産物」としての表示が可能であることも示されています。

つまり、現実的な戦略として以下のような戦略が考えられるのです。

1.最初の数年は通常の防除をしながら樹勢と株づくりを優先。

2.摘採を本格化させたい年の3年以上前に有機的管理へ切り替え、認証取得の条件を満たす。

ステップ5:有機の“切り替え年”から逆算して、管理を二段階に分ける

実務としては、有機を「最初から」か「途中から」かの二択にせず、二段階設計にすると計画を立てやすくなります。

第1段階は、樹勢づくりを最優先にして、欠株・生育ムラを減らす期間です。

第2段階は、認証取得に向けて、有機的管理へ移行し、記録と運用を固定する期間です。

この切り替えを曖昧にすると、結局「いつ有機に入ったのか」が不明瞭になり、計画が崩れてしまうことも考えられます。

制度上は「管理の開始時点」が問われるため、切り替え日と管理内容を、最初から記録前提で置くのが安全です。

ステップ6:「ムラ対策」は被覆ではなく株づくりでやる

既存園で議論されがちな「被覆の均一性」は、弊社モデルでは主戦場ではありません。

代わりに、ムラの原因は、植栽後の数年で起きる、活着・初期生育・欠株・土壌条件差になりやすいと考えられます。

したがって、最初に潰すべき茶園のムラは次の3つです。

  • 圃場内の排水・保水差による生育差。
  • 苗の品質差と植え付け精度による活着差。
  • 管理作業(施肥・除草・防除・整枝)のタイミング差。

ここを均すほど、遮光条件下でも「樹勢の土台」が揃いやすくなるため、碾茶としての設計が安定するでしょう。

ステップ7:全体計画は「年表」で運用し、判断を前倒しにする

新植は成園化までの時間がかかるため、意思決定が遅れるほど損失が大きくなります。

そこで、最初から年表で運用し、「いつ何を決めるか」を決定しておきます。

時期(例)主要タスク先に決めること失敗しやすい点
更地化〜植栽前設備条件に合わせた栽培設計光環境の前提/栽培ゴールゴール未確定で品種が迷走
植栽〜初期育成活着と樹勢づくり樹勢重視の管理基準欠株・ムラが放置される
成園化へ収量と品質の型づくり碾茶としての運用ルール工程と管理の再現性が崩れる
有機を狙う場合有機的管理への移行「最初の収穫前3年以上」から逆算切り替え開始日が曖昧

「いつ有機に切り替えるか」を先に置くと、最初の数年の管理も“迷いが減る”のが実務上の利点です。

  • 弊社モデルは新植が前提なので、失敗回避の中心は“被覆の均一性”ではなく“樹勢の土台設計”になる。
  • 日照が減る前提で、樹勢の強い品種を優先し、品種分散でリスクを下げる。
  • 有機は「最初の収穫前3年以上」の要件から逆算し、初期は慣行→計画年の3年以上前から有機的管理へ移行する戦略が取り得る。

海外需要は追い風だが、勝負は「安定供給」

ここでは、海外需要を「売れる話」で終わらせず、農家の意思決定に関わる話として紹介します。
伸びる市場ほど、欠品と品質ブレが致命傷になることを知っておきましょう。

需要の事実:輸出額は伸び、粉末(抹茶等)の存在感が増している

農林水産省の資料によると、令和6年(2024年)の緑茶輸出額は364億円で、抹茶を含む粉末茶の需要拡大により過去最高になったとされています。

同資料では輸出価格の推移なども示され、粉末状の緑茶(抹茶等)の位置づけが読み取れます。

また参議院の調査資料でも、粉末状の緑茶(抹茶含む)は、その他の緑茶より輸出単価が高い(約2.2倍)と明記されています。

ここまでが「追い風」の部分です。

供給の現実:猛暑・需給逼迫で“簡単に増えない”

一方でReutersでは、記録的な暑さが茶樹にダメージを与え、減収や供給不足、価格上昇を招いているという問題点について報じています。
さらに、増産したくても新植から戦力化まで年単位が必要で、需給ギャップが簡単に埋まらない点にも触れています。

海外需要は確かに追い風ですが、供給側にとって重要なのは「当たれば儲かる」より、外れ年でも落ち込み過ぎないことなのではないでしょうか。
そこでKPIの置き方が変わります。

農家が守るべきKPIは「量」より先に「ブレ」

碾茶化・海外需要を語るとき、議論は単価に寄ってしまいがちです。
しかし取引の現場でまず優先されることは、品質以上に「欠品しない」ことです。

したがってKPIは次の順番になります。

1.供給の継続性(年次で落ち込み過ぎない)。
2.ロットの揃い(色・香味のばらつきを小さくする)。
3.工程の再現性(毎年同じ型で作れる)。

この3つができて初めて、需要の追い風が利益になります。


やぶきたの弱点を論文で再確認し、「品種×環境×作型」の三層設計へつなぐ

猛暑による品質・収量の不安定化に対しては、被覆よりも先に、品種構成(改植)と栽培基盤の更新で構造として耐えることが重要になります。

研究が示す「やぶきたが猛暑下で揺らぎやすい理由」

茶業研究報告では、熱画像による評価により、水ストレスが著しい品種ほど樹冠面温度が高いことが示されています。

同報告にて、夏期の樹冠面温度が高く水ストレスが大きい品種の一つとして挙げられている品種が「やぶきた」です。

さらに、干ばつ年に灌水効果が高いことも示されており、裏返せば「ピークストレスが出やすい園ほど、管理や設計で改善余地がある」ことを意味します。

ここまでを踏まえると、猛暑時代に「ぶれ」を減らす本命の戦略となるのは、園を更新し、品種を組み替えることになるでしょう。

「改植が妥当」だが一気に進めにくいのが現実

静岡県の資料では、現在も茶園面積の約9割を「やぶきた」が占めているとされています。

この状況で、産地全体が短期間で一斉に改植するのは、苗・労力・設備・加工体制の面からも現実的ではありません。

一方で、海外需要の伸長や気象条件の変化を踏まえると、「いつかは改植が必要」と考えつつ先送りし続けることもリスクになります。

だからこそ、次のような戦略が必要になっていくのではないかと考えられます。

  • 今あるやぶきた茶園は、当面の生産基盤として活用する。
  • 同時に、海外展開(特に粉末・抹茶領域)を見据えた区画から、段階的に改植と作型転換を進める。

この「両立」が、最も現実的な移行戦略です。

やぶきたの碾茶は「ダメではない」が、将来は「適性の高い品種」を増やしたいげ

現在、碾茶は品種選定や被覆期間等の工夫で多様に作られている状況です。

その中には「やぶきた」も含まれており、栽培・製造方法によっては高品質な碾茶ができるとも言われています。

ただし、本記事や前編でも記載したとおり、やぶきたの生育や品質に限界がきていることも事実です。

静岡県の資料では、県内の奨励品種等における「碾茶適性」の評価がまとめられており、品種選択を「勘」ではなくデータで議論できる状態になっています。

つまり、現時点でやぶきたの碾茶・抹茶が一定の需要を持ち得ることは踏まえつつも、これからの増産局面では、てん茶適性の評価が高い品種を組み込み、品質と供給の再現性を上げる方が合理的です。

「品種×環境×作型」三層設計の考え方

これからの碾茶需要を踏まえながら、営農型太陽光を組み合わせた今後の経営について考えます。

第一層:品種(改植)
猛暑下でのぶれを減らすため、碾茶適性や病害対応力を含めて、将来の主力を分散しておく考え方です。

今後も猛暑が続くことを考えると暑さへの耐性を持っていることが必須となります。また、海外需要の高い有機栽培を進めるのであれば、病害虫耐性が高い品種を選ぶことも重要になるでしょう。

第二層:環境(営農型太陽光の設計)
弊社の営農型太陽光は、生産者様が売電するモデルではなく、農業生産と両立しながら圃場条件に合わせて「作り方」を組み直すための基盤です。

弊社の設備は碾茶用の棚として活用できることも大きな強みですが、猛暑の日射量を抑えられることも大きなメリットになります。

第三層:作型(煎茶→碾茶の段階移行)
海外需要が伸びる粉末・抹茶領域に合わせ、既存園を活かしつつ、将来の主力となる区画から碾茶化を進める設計です。


まとめ

海外市場では、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大しており、緑茶輸出は令和6年に364億円で過去最高とされています。

参議院の調査資料でも、粉末状の緑茶(抹茶含む)は輸出の伸びが大きく、輸出単価が他形状より高い点が示されています。

国内の生産側では、需要の高まりを受けて碾茶の生産が増加傾向です。

一方で、猛暑時代が到来していることも考えた設計をしなければ、この波に乗るのは難しくなります。課題は「良い年にたくさん売る」よりも、悪い年に落ち込み過ぎないことです。

やぶきたは、夏期に樹冠面温度が高く水ストレスが大きい品種の一つと整理されており、気象条件次第で品質・収量がぶれやすい側面があります。

だからこそ、将来を見据えた最適解は、改植(品種更新)を軸に、作型を段階的に組み替えることです。

ただし静岡では、茶園面積の約9割をやぶきたが占めているため、短期間で全面改植するのは現実的ではありません。

そこで弊社では、「今あるやぶきた茶園を活かしながら、区画単位で改植と碾茶化を進める」ことを推奨します。

現時点でも、品種選定や工夫により、やぶきたを含む多様な品種で抹茶原料が活用されているという整理はあり、既存園の活用余地は残ります。

そのうえで、海外展開を見据える区画から、碾茶適性の評価が高い品種を組み込み、品質と供給の再現性を引き上げていくことが重要です。

また、碾茶栽培と営農型太陽光の両立は、脱炭素・地域課題解決といった文脈で語られ始めており、SDGsの観点からの言及も増えています。

つまり、「海外需要の伸び」×「気象リスクの増大」×「脱炭素・SDGsの潮流」が同時に進むほど、営農型太陽光の下で生産される碾茶の注目度は、今後さらに高まる可能性があるのです。


参考文献・参考資料

  • 農林水産省「茶をめぐる情勢」(令和6年輸出額364億円等)。
  • 農林水産省「緑茶の種類について教えてください。」(てん茶=被覆2〜3週間、抹茶=てん茶の微粉末)。
  • 伊地知仁(2017)茶業研究報告「熱画像によるチャ樹冠面温度評価およびその品種間差異と灌水効果」。
  • 竹本哲行(2019)茶業研究報告「被覆期間の違いが茶樹の生育と夏期の樹冠面温度に及ぼす影響」。
  • Reuters(2025/07/04)「Japan’s heat-stressed matcha tea output struggles to meet soaring global demand」。
  • 参議院 調査資料(2025/12)「茶の輸出拡大-抹茶供給体制の現状と課題」。

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