世界的な健康志向や環境意識の高まりを背景に、有機栽培による碾茶をはじめとした日本茶への需要が拡大しています。
一方で、有機転換に踏み出せずにいる茶農家の多くが、農薬に頼らない「防除」や「除草」への不安を抱えているのが事実です。
本記事では、有機茶園における防除技術と除草手法を具体的に紹介しながら、営農型太陽光発電との親和性や未来型農業としての可能性にも言及します。
有機転換を検討中の茶農家の方はもちろん、脱炭素経営に関心のある企業担当者にとっても、有益な内容をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
有機茶の防除と除草で乗り越える3つの課題
ここでは、有機茶栽培において課題となりやすい「防除」と「除草」について、3つの主要な論点を整理してご紹介します。
①防除の労力とコスト
有機栽培では農薬の使用が制限されるため、防除作業には多くの労力とコストが必要です。
その理由として、使用可能な資材が限られるため対処できる害虫や病気の範囲も狭くなることが挙げられます。
実際、静岡県内の一部有機茶園では、年間8回以上の防除作業が必要とされているとのことです。
加えて、天候の影響を受けやすく、適切なタイミングでの散布が難しいことも現場での課題と言えるでしょう。
これらの理由により、有機茶園における防除は、経営上の大きな負担となる傾向が見られます。
②除草作業の頻度と限界
有機茶園では除草剤の使用が認められていないため、物理的な除草に依存せざるを得ません。
その結果、特に雑草の生育が早い夏場においては月に2〜3回の除草作業が必要になることも珍しくありません。
静岡県の調査によれば、10aあたり年間約50〜70時間を除草に費やしており、農作業全体の60%以上を占めている事例もあるようです。
たとえ有機の需要が高まっていても、このような状況は茶農家にとって非常に大きな負担となり、有機転換の妨げにもなり得ます。
省力的な除草技術や機械の導入が急務とされています。
③慣行農法との違い
有機栽培と慣行栽培では、防除および除草における手法が大きく異なります。
慣行農法では化学農薬や除草剤の使用が一般的であり、比較的少ない労力で安定した生産が可能です。
一方、有機農法では自然環境に配慮した手法が求められ、人的対応や資材の選定など、より柔軟かつ計画的な管理が必要となります。
以下の表に、両者の違いを簡潔にまとめました。
項目 | 慣行農法 | 有機農法 |
---|---|---|
防除手段 | 化学農薬中心 | 物理的・生物的防除 |
除草方法 | 除草剤の使用 | 手作業・機械・マルチ |
作業頻度 | 年間2~4回程度 | 年間5~8回以上 |
作業負担 | 比較的軽い | かなり重い |
このように、栽培方式による違いを理解したうえで有機転換に向けた準備を進めていくことが重要です。
有機茶園で使える防除技術と代替手段5選
ここでは、有機茶園で実際に使用されている防除技術と代替手段を5つの観点からご紹介します。
①物理的防除の工夫
有機茶園では、農薬の使用が制限されているため、防虫ネットや寒冷紗などを用いた物理的な防除が重要な手段となります。
たとえば、飛来害虫の侵入を防ぐために、茶樹全体を覆うネットを設置する方法などが一例です。
また、光やフェロモンを利用したトラップによって特定の害虫を誘引・捕殺する技術も効果を発揮しています。
これらの工夫により、農薬に頼らずとも病害虫の発生を一定程度抑制することが可能です。
ただし、設備投資が必要になるため、コストと効果のバランスを踏まえた導入判断が求められます。
②微生物農薬の活用
有機JASで使用が認められている微生物農薬は、化学農薬の代替手段として非常に有効です。
中でも代表的な「BT剤(バチルス・チューリンゲンシス)」は、特定の害虫に対して高い殺虫効果を持ちながらも、人や益虫にはほとんど影響を及ぼしません。
ただし、散布のタイミングが効果に大きく影響するため、定期的な害虫発生のモニタリングと防除暦の整備が欠かせません。
計画的に使用することで、有機茶園における安定した収量確保に寄与するでしょう。
③蒸気処理技術の導入
近年では、薬剤を使用せずに害虫を駆除する「蒸気防除」が注目されています。
この手法は、茶樹の新芽部分に低温蒸気を噴霧し、害虫や卵を物理的に死滅させるという仕組みです。
農研機構などの研究機関による実証では、薬剤防除に近い効果が得られるとされています。
また、薬剤の耐性リスクや残留リスクがないため、消費者からの信頼性も高まる方法です。
導入コストは一定水準を超えますが、長期的には持続可能性と安全性の両立が見込まれます。
④病害虫に強い品種選定
防除負担を軽減するうえで、病害虫に強い品種の選定も非常に重要です。
例えば、「つゆひかり」や「おくひかり」などは、炭疽病や輪斑病への耐性を有しており、実際の栽培現場でも導入が進んでいます。
こうした品種の導入は、有機栽培における防除作業を減らすうえで大きなメリットとなるでしょう。
また、品種によっては抹茶や碾茶に適した品質を持つものもあり、今後の市場ニーズにも対応可能です。
導入にあたっては、地域の気候や土壌条件を考慮した選定が求められます。
⑤自然天敵の利用
自然界の食物連鎖を活かした天敵利用は、有機農業における最も持続可能な防除手段の一つです。
アブラバチやクモ、カメムシ類など、特定の害虫を捕食または寄生する天敵を園内に定着させることで、自然な害虫抑制が可能となります。
これを実現するには、農薬の使用を抑えるだけでなく、天敵の生息環境を維持する工夫も必要です。
たとえば、通路部分にカバークロップを導入することで、天敵が定着しやすい環境を整えることができます。
天敵の活用は、環境保全型農業としての価値も高く、今後ますます注目される技術となるでしょう。
有機茶園の除草方法と機械導入による省力化
ここでは、有機茶園における代表的な除草方法と、機械導入による省力化の取り組みについて説明します。
①手取り除草の現実
有機栽培では、化学的な除草剤を用いることができないため、手作業や機械による物理的な除草を行うことが一般的です。
特に夏場は雑草の生育スピードが速く、10~14日に1回の頻度で除草作業が必要になる場合もあるため、有機栽培における大きなハードルのひとつと言えるでしょう。
静岡県内での調査によれば、10アールあたり年間50~70時間が除草作業に費やされており、総労働時間の6割以上を占めるケースも確認されています。
こうした労力の負担が、高齢化が進む農業現場において有機転換の大きな障壁となっていることは間違いありません。
そのため、次にご紹介するような機械化や管理手法の導入が求められています。
②乗用型除草機の実力
近年では、乗用型除草機を活用した省力化に対する研究が進んでいます。
農研機構の実証実験によると、手作業に比べて作業時間が大幅に短縮され、幼木園で約53%、成木園では約78%の削減効果が可能とのことです。
乗用型除草機は走行しながら一度に広い面積を処理でき、作業者の身体的負担を軽減できる点でも優れています。
また、高温の蒸気を噴霧することで除草するタイプの機器も開発が進んでおり、注目を集めています。
初期導入には一定の設備投資が必要ですが、中長期的には費用対効果の高い手段だといえるでしょう。
③マルチング資材の活用
除草効果を高めつつ、作業頻度を抑える方法として、マルチング資材の導入が有効です。
特に有機資材として用いられる「刈草マルチ」や「黒色フィルム」は、日光を遮断することで雑草の発芽を抑制する効果があります。
また、地温を一定に保つことができ、土壌の乾燥防止や微生物環境の安定化にもつながります。
以下は代表的なマルチ資材の比較表です。
資材名 | 抑草効果 | 耐久性 | 特長 |
---|---|---|---|
刈草マルチ | 中 | 低(約1~2か月) | 自園内で調達可能。低コスト |
黒マルチフィルム | 高 | 中(約3~5か月) | 地温上昇により雑草と病害を抑制 |
防草シート | 非常に高 | 高(1年以上) | 半永続的に使用可能。高耐久 |
④雑草を生かす考え方
近年では、除草を「抑える」のではなく、共生し「活かす」方向に発想を転換する動きも広がっています。
たとえば、低草丈の草種をあえて園内に残す「被覆植生管理」は、強害雑草の侵入を抑制しつつ、土壌の流出や乾燥を防ぐ効果も期待できます。
また、定期的な刈り取りを行うことで、景観や衛生環境を維持しながら生態系を安定させることが可能です。
このような草生管理は、有機農業の理念と調和しつつ、作業効率を損なわない持続可能な手法といえるでしょう。
有機転換と営農型太陽光発電の相性が良い理由3つ
ここでは、有機農業と営農型太陽光発電の組み合わせがなぜ効果的なのか、その理由を3つの視点から紹介します。
①収益の安定化
有機栽培は高付加価値が期待できる一方で、気候や病害虫の影響により収量の変動リスクが高いという課題も抱えています。
しかし、TEA ENERGYが提供する営農型太陽光発電を併用することで、茶の販売収入に加え、安定的な土地の賃料を得ることが可能です。
さらに、太陽光発電の架台を被覆棚として活用できる構造となっているため、SDGsに配慮したブランド価値の向上も目指せます。
これから海外向け有機栽培茶が増加していくなかで、周りと差別化しながら経営の安定化につなげることができるでしょう。
②作業負担の分散
営農型太陽光発電の導入により、茶園の上部に設置されたソーラーパネルが直射日光を遮る役割を果たします。
これによって地表の温度が下がり、雑草の成長スピードが抑制されるため、除草回数の減少が期待できるでしょう。
また、設備の架台を被覆棚として活用することで、通常であれば数人で行わなければならない被覆作業が、1人でもカーテンレールを引くだけで簡単に行えることも魅力です。
つまり、農作業の効率化と品質向上の両面で、営農型太陽光は有機転換を支援する有効な技術といえます。
③地域との共存モデル
営農型太陽光発電は、単なる営農者の収益確保手段ではなく、地域全体に恩恵をもたらす可能性を秘めています。
たとえば、発電事業を地域電力会社と連携して運用することで、再生可能エネルギーの地産地消や、地域の脱炭素化に貢献することが可能です。
さらに、発電・栽培・加工・販売まで一貫したビジネスモデルを展開する企業と協業することで、地域の雇用創出や農地の有効活用にもつながるでしょう。
このように、有機農業と営農型太陽光を組み合わせた取り組みは、環境・経済・地域の三方良しを実現する新たな農業モデルとして期待されています。
TEA ENERGYが実現する未来型農業とは
本章では、TEA ENERGYが推進する農業の新たなかたちについて、3つの取り組みから紹介します。
①煎茶から碾茶への移行支援
近年、海外を中心とした抹茶の需要増加に伴い、煎茶から碾茶への転換に関心を寄せる茶農家が増加しています。
TEA ENERGYでは、遮光設備の導入支援や栽培技術の提供を通じて、この移行を円滑に進めるサポートを行っています。
碾茶は収穫までに手間がかかるものの、抹茶原料としての単価が高く、輸出市場でも高く評価されているのが特徴です。
従来の煎茶と比較して、1kgあたりの単価は2〜3倍に達するケースもあり、収益性の高い作物として注目されています。
こうした高付加価値作物への移行を支援することで、地域の茶業全体の持続性と競争力を高めることが可能となるでしょう。
②有機と再エネの融合事例
TEA ENERGYは、有機栽培と営農型太陽光発電を組み合わせた複合経営モデルの実証を進めている企業です。
静岡県内の一例では、有機JAS認証圃場に50kW級のソーラー設備を導入し、年間約100MWhの発電を実現しています。
この売電収入は、有機栽培に必要な資材費や人件費の補填に活用され、経営の安定化に寄与しています。
また、営農と発電を両立させることで土地の有効活用が促進されるため、耕作放棄地対策としても有効です。
このような融合モデルは、単なる農業支援を超え、地域の課題解決に貢献する包括的なソリューションといえるでしょう。
③脱炭素と収益を両立する農業
TEA ENERGYが目指すのは、「環境への配慮」と「経営の安定」を両立する次世代型の農業です。
有機農業による化学資材の削減と、再生可能エネルギーによる電力の地産地消を掛け合わせることで、温室効果ガスの削減に直接的な効果をもたらします。
さらに、脱炭素社会の実現を目指す企業との連携を進めることで、環境価値の高い農産物を供給するサプライチェーンの構築も可能です。
このような取り組みは、企業にとってはESG投資やCSRの一環となり、農業従事者にとっては経済的持続性を支える重要な基盤となります。
TEA ENERGYは今後も、環境と調和した高収益型の農業モデルを全国へと広げていく構想を描いています。
有機茶への転換は、消費者からの期待が高まる一方で、防除や除草といった日々の管理作業において多くの課題を伴っているのが現状です。
しかし、微生物農薬や機械除草、マルチング資材などの技術を組み合わせることで、持続可能で現実的な有機栽培が実現可能となります。
さらに、TEA ENERGYが提案する営農型太陽光発電を活用すれば、収益の安定化と労力の軽減を図りながら、脱炭素にも寄与する未来型農業を築くことができます。
防除や除草の悩みを一歩ずつ解決し、有機とエネルギーが調和する次世代の茶業モデルにぜひご注目ください。
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