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猛暑で「やぶきた」が揺らぐ。芽揃い・収量低下にどう備えるか(前編)

近年の猛暑で、やぶきたの芽揃い不良収量低下に陥る茶園が増えています。

静岡県では、茶園面積の約9割が品種「やぶきた」で占められているとされています。

つまり、やぶきたが揺らぐ年は、個々の園だけでなく産地全体の供給と品質の安定性が同時に揺らぎやすい構造です。

本記事(前編)では、原因を「気温が高いから」で止めずに、水ストレスと樹冠温度(葉温)という「測れる指標」まで落として整理します。

そのうえで、一次対策としての改植(品種分散)と、環境側の対策としての営農型太陽光(ピークストレス抑制)について具体的にご紹介します。


なぜ今、やぶきたの芽揃い・収量が崩れやすいのか

こちらでは、現場で起きている変化を単なる「気温」で終わらせるのではなく、もう一段原因に近い言葉で整理します。結論として、猛暑年に効いているのは空気温の高さだけではなく、高温と乾きが重なった時間帯のピークです。

やぶきたは猛暑下で「水ストレスが大きい」ことが示されている

熱画像を使った茶業研究報告では、盛夏期の樹冠面温度を計測し、水ストレスが著しい品種ほど樹冠面温度が高いと記載されています。同報告では、やぶきたは夏期の樹冠面温度が高く、水ストレスが大きい品種の一つと明記されていることもポイントです。

さらに、干ばつ年において、やぶきた等では灌水効果が高かったことも示されています。実はここが重要な部分となっており、やぶきたの不調を「暑いから」だけで終わらせると、対策が抽象論になってしまうのです。

一方で、「暑い×乾く」局面で水ストレスが増え、樹体の冷却が追いつかない時間帯が長くなってきてしまうと、打ち手は実務以外になくなってしまいます。

芽揃い不良は「見た目」の問題ではなく経営課題になる

「芽揃いが悪い」というのは見た目の問題だと思われがちですが、実際にはかなり重大な経営課題につながる要素です。

まず、芽揃いが悪いと摘採適期の見極めが難しくなります。摘採判断が遅れると硬化が進み、早めると量を取り切れず、結果として荒茶品質と収量の両方がぶれやすくなるのです。

さらに芽揃いが崩れる年は園内ムラも増えやすくなり、園内ムラが増えると、同じ日に摘んでもロットの品質が揃いにくくなってしまいます。

収量が低下するという問題も、単年の減収以上に年ごとの変動幅が大きくなることが経営を圧迫します。以下では、芽揃いの問題によって現場で起きやすい症状を、原因に近い捉え方へ整理します。

現場の症状直接の困りごと原因に近い捉え方
芽揃いが悪い摘採判断が難しい/品質がぶれるピークストレスが増える
収量が落ちる取り切れない/回復が遅い水ストレスが強い局面が長い
品質が不安定ロットが揃わない園内ムラが増える

この整理を起点にして考えてみると、対策は二方向に分かれます。

一つは、品種側で「耐性を足す」ことを目的とした改植を行うことです。

もう一つは、環境側で「ピークを下げる」微気象対策で、営農型太陽光はここに位置づきます。


一次対策は改植。やぶきた依存から脱却し、品種を分散する

こちらでは、改植を「やぶきたを捨てる話」にしないための考え方について整理します。

結論としては、やぶきたを否定するのではなく、やぶきただけに賭けない構造を作ることが重要だと考えます。

つゆひかり・しずゆたか等は高温に強い可能性が示されている

静岡県(茶業研究センターに寄せられた技術問合せへの対応)では、県育成の多収性品種である「つゆひかり、しずゆたか」などは、近年の気象条件下でも生育が極めて良好なため、高温に強いと考えられています。

しずゆたかに関しては登場したばかりの品種であるため断定はできませんが、つゆひかりはすでに多くの実績があるため暑さへの耐性を実感している生産者も多いことと思います。

しずゆたかは「多収」と「炭疽病に強い」が明確で、改植判断の軸を作りやすい

しずゆたかについて簡単に解説します。

静岡県のパンフレットでは、しずゆたかは主力品種「やぶきた」の2倍の収量性を持ち、主要病害である炭疽病に強い新品種として記載されています。

なお、パンフレットには生葉収量の比較(例として一番茶・二番茶の倍率や、年次平均の考え方)が具体的に示されています。

改植は、大きな労力と時間をかけなければならない、長期投資です。

だからこそ、導入初期は「この品種で何を取りにいくか」が明確なほど判断が速くなります。

多収性は、単純に反収が上がるというだけでなく、煎茶だけでなくドリンク原料等の需要を想定する場合にも経営設計の材料になる重要な指標です。

また、炭疽病に強いということは、減農薬化や有機化を視野に入れる場合に安定性の面で効いてきます。

なお、碾茶としての品質や収量については、まだ実績がほとんどないため明確にはなっていません。

つゆひかりは「耐病性」「被覆適性」などが高く信頼性が高い

静岡県の「つゆひかり」資料では、「耐病性:炭疽病『強』」と明記されています。

さらに同資料では、被覆適性:高いとも記載されており、被せ茶や碾茶にしやすい品種だということがわかります。

収量性についても「やぶきた比で多収」といった形で記載されており、やぶきたからの改植時に選ばれることが多い品種です。

ここで言いたいことは、つゆひかり・しずゆたかが「万能品種」であるという紹介ではありません。

重要になるのは、猛暑時代のリスクを下げるために品種構成を分散しておくこと自体が経営上の強みになる点です。

静岡県の資料でも、やぶきた偏重による弊害として、摘採期の集中や病害虫の多発、香味の画一化などが問題になり得るとされています。


芽揃いの悪さに営農型太陽光が効き得る理由

ここでは、営農型太陽光を「発電の話」ではなく、園の環境を整える仕組みとして考えます。

品種以外の芽揃い問題を解く鍵は、樹冠温度と乾きのピークを下げる設計にあります。

樹冠面温度は、水ストレスを「見える化」する入口になる

2017年の茶業研究報告「熱画像によるチャ樹冠面温度評価、品種間差異と灌水効果」によると、樹冠面温度を客観評価し、黒球温度計を参照にすることで茶園間比較が可能になることが述べられています。

同研究では、樹冠面温度が高い園は水ストレスが強い可能性があり、優先的に灌水することで悪影響を軽減できる、という実務的な示唆も与えています。

つまり、猛暑日の正午前後に露地で樹冠温度のピークが上がりやすい園は、それだけで「改善余地」を持つ可能性があると言い換えることができるのです。

ここで押さえるべきポイントは一つです。

「気温」ではなく「園の樹冠温度のピーク」を下げる。

この発想に変えることで、具体的な対策を設計できます。

太陽光パネルによる遮光は、夏期の樹冠温度を動かし得る

被覆期間の違いが、茶樹の生育と夏期の樹冠面温度にどのように影響するかを扱った研究報告が存在します。

遮光とは、単に圃場を暗くするための技術ではありません。

「どの時期に」「どの程度」「どのくらいの期間」光環境を変えるかで、園内のストレスのかかり方を軽減することも可能になるのです。そこで役立つのが、茶園の上部に太陽光パネルを設置する営農型太陽光システムです。

営農型太陽光は「直射ピークを減らす」設計として活用し得る

営農型太陽光は圃場の上部にパネル構造があるため、直射が厳しい時間帯を減らし、熱・乾燥ストレスのピークを抑える方向へ設計できます。

もちろん、光量が減ることで収量が低下する可能性もあります。しかし、ここで狙うのは最大収量の更新ではありません。

猛暑が常態化するほど価値が出るのは、芽揃い・樹勢・収量の「年ごとのブレ」を小さくすることであると考えられます。

その結果として摘採判断がしやすくなり、経営の安定性も向上すると考えられるからです。

なお、弊社の営農型太陽光は圃場すべてを覆うタイプではなく、植物の生育に十分な日照を得られるようにパネル間が開いているものになっています。

最初にやるべきは小区画で差分を取ること

営農型太陽光による遮光は、園ごとに効き方が異なります。

土壌条件、保水性、樹齢、管理履歴、列方向、風通しで結果が変わり得るからです。

そのため、最初は小区画で「導入前のベースライン」を取り、導入後に同条件で比較するとわかりやすくなるでしょう。

最初に見る指標いつ見る何がわかる
樹冠面温度(ピーク)猛暑日の正午前後水ストレスの強さの目安
土壌の乾き方晴天が続いた後根域の負荷の出方
芽揃い(適期の幅)一番茶の摘採前後経営への影響(摘採判断の難易度)

樹冠温度の計測は、必ずしも大掛かりな設備が必要という意味ではありません。

同じ時間帯・同じ天候で、導入前後の差が比較できることが最重要です。


有機転換を考えるなら「品種分散+ピーク抑制」が効きやすい

海外からのお茶に対する需要が増加し、同時に有機栽培された商品の需要も大きく増加しました。

しかし、有機栽培では病害虫対応・除草・樹勢維持が同時に重くのしかかり、負担になりやすいのが事実です。

そのため、炭疽病に強い特性が整理されている品種を組み合わせることは、安定性の観点で大きな意味があります。

また、被覆適性が高い品種特性があるものを選択すれば、将来「かぶせ」「碾茶」を視野に入れる場合にも選択肢を広げやすくなるでしょう。

そして環境側では、猛暑のピークを下げる方向が、樹勢維持の観点で効いてきます。


前編まとめ:やぶきた対策は「改植+ピーク抑制」を同時に考える

昨今のやぶきたの不調は、「暑いから」だけでは説明しきれません。

実際の研究では、やぶきたは盛夏期の樹冠面温度が高く、水ストレスが大きい品種の一つであり、干ばつ年に灌水効果が高いことが示されています。

つまり、崩れる年は、茶園の樹冠温度のピークが高くなることで一気に崩れてしまうのです。

灌水設備が整った茶園であれば対策は可能ですが、維持コストの問題から使用できない圃場も多いのではないでしょうか。さらに、この気象は「異常気象」ではなく、今後ずっと続くことも考えられるのです。

だから、暑さに強い品種に改植することで耐性を足し、環境によって樹冠温度のピークを下げる。

この二つを同時に進めるのが、猛暑時代の現実解です。

やぶきたは猛暑下で水ストレスが大きい品種の一つとされ、樹冠温度の計測で水ストレスが強い園を判別し得る。
静岡県の整理では、つゆひかり・しずゆたか等は近年の気象条件下でも生育が良好で、高温に強いと考えられている。
しずゆたかは多収性(やぶきた比2倍)と炭疽病耐性が明確で、改植判断の軸を作りやすい。
つゆひかりは炭疽病「強」や被覆適性が一次情報に明記され、分散・作型転換の基礎情報として使える。


後編について

後編では、ここからさらに一段話を進めて、煎茶から碾茶(抹茶原料)へ、一部から移行する現実的なステップについて整理します。

海外需要の追い風を「売れる話」で終わらせず、猛暑下でロットを揃えて安定供給するために、営農型太陽光をどう位置づけるかをまとめます。


【参考文献・参考資料】

  • 静岡県(PDF)「あたらしい農業技術」:静岡県の茶園面積の約9割が「やぶきた」等の整理。
  • 静岡県(PDF)「茶等の新たなニーズに対応するためには、『やぶきた』に…」:静岡のやぶきた比率(約九割)等の整理。
  • 静岡県(Web)「茶業研究センターに寄せられた技術的な問合せへの対応」:つゆひかり・しずゆたか等は高温に強いと考えている、被覆の目安等。
  • 静岡県農林技術研究所 茶業研究センター(PDF)「超多収で炭疽病に強いチャ新品種『しずゆたか』」。
  • 静岡県(Web)「チャ新品種『ゆめすみか』と『しずゆたか』について」:収量がやぶきたの約2倍、炭疽病発生がほとんどみられない等。
  • 静岡県(PDF)「芳醇な香味と水色優れる多収性品種『つゆひかり』」:耐病性(炭疽病「強」)、被覆適性、収量性等。
  • 伊地知 仁(2017)茶業研究報告:熱画像によるチャ樹冠面温度評価、品種間差異と灌水効果(やぶきた言及)。
  • 竹本 哲行(2019)茶業研究報告:被覆期間の違いが茶樹の生育と夏期の樹冠面温度に及ぼす影響。

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