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野村證券が分析した欧米の営農型太陽光発電動向と日本への示唆とは

「営農型太陽光発電」という言葉をご存じでしょうか。

農地で作物を育てながら、上部空間で太陽光発電を行う取り組みが、いま世界で急速に広がっています。

とりわけ欧米では、農業政策やエネルギー政策と連動しながら大規模かつ戦略的な導入が進んでいる状況です。

一方、日本ではまだ制度や構造的課題が多く、普及には至っていません。

本記事では、野村證券による詳細な調査レポートをもとに、欧米における最新事例や政策の潮流を紹介するとともに、日本が学ぶべき示唆を読み解いていきます。

また後半では、TEA ENERGY株式会社の取り組みを通じて、今後の日本型アグリソーラーの可能性についてもご紹介します。

営農と再エネの共生が、農業や地域、そして脱炭素社会にどう貢献し得るのか――その未来を、一緒に考えてみませんか。


野村證券の調査から読み解く営農型太陽光発電の海外動向

本章では、野村證券が2025年5月20日に発表した「欧米における営農型太陽光発電の動向」に基づき、欧州・米国での最新の取り組みや法制度、事例について詳しくご紹介していきます。

①欧州の導入背景と拡大要因

欧州では、営農型太陽光発電(Agrisolar/Agrivoltaics)が近年急速に拡大しています。

その背景にあるのが、気候変動対策の強化やエネルギー自立の必要性、そして2022年に欧州委員会が掲げた「REPowerEU」計画の存在です。

この計画により、EUは太陽光発電容量を2030年までに750GWに拡大する方針を打ち出し、農地活用の一環として営農型太陽光発電が急速に普及しているという流れです。

スペイン、イタリア、フランスでは発電出力20MW超の大規模施設も登場し、農作物の保護とエネルギー生産を両立させる取り組みが加速しています。

特にフランスでは2023年の「再生可能エネルギー生産加速法」により、農地での通常の太陽光発電は禁止され、営農型のみが許可されるようになりました。

このように、欧州では制度と政策が連動し、営農と再生可能エネルギーの融合が本格化しているのです。

②注目される米国の戦略と事業モデル

米国では、NREL(国立再生可能エネルギー研究所)が中心となり、2010年から実証実験を進めてきました。

本格的な商業化は2021年以降で、特にバイデン前政権による「インフラ投資・雇用法」や「インフレ削減法」が後押しとなり、10年間で約40兆円を投じる再生可能エネルギー施策が打ち出されました。

アメリカでは州ごとの支援制度が主流で、マサチューセッツ州の「SMARTプログラム」では営農型太陽光発電に対してインセンティブが与えられている状況です。

大規模施設では羊の放牧や野草の育成と組み合わせた「生物多様性型ソーラー」が登場し、カリフォルニア州のTopaz(752MW)など、世界有数の発電規模を誇る事例も登場しています。

法制度の柔軟性と技術革新により、米国では農地利用と再エネが高度に融合したモデルが次々と生まれているのです。

③導入事例から見る成功要因

成功している海外の営農型太陽光発電には、いくつかの共通点があります。

第一に、農業と再生可能エネルギーを“別々”ではなく“融合的”に設計している点です。

第二に、農作物(ブドウ、干し草、有機ハーブなど)の生育に対する遮光効果を活かしていることです。実際に品質向上や病気の減少が報告されています。

第三に、地域農家と大手発電事業者がパートナーシップを結ぶことで、リスク分散と収益安定化が図られていることです。

このような包括的アプローチが、農業とエネルギーの“持続可能な二重利用”を可能にしています。

④欧米の営農型太陽光発電の法制度比較

法制度の整備は、導入促進のために不可欠な要素です。

欧州ではフランスが先行しており、「営農型のみ設置可」とする法令や、収量維持義務・遮光率制限・供託金制度など、詳細な規定が存在します。

ドイツには「DIN SPEC91434」という規格があり、農作物収量66%以上などの基準を設けて制度化を進めているとのことです。

一方で、米国は州ごとにルールが異なり、全米共通の法制度は存在しません。これは導入の柔軟性につながる一方で、制度格差という課題も抱えています。

日本が今後モデルとすべきは、フランスのような「農地保全と発電の両立」を厳格に法制度で規定するスタイルであると言えるでしょう。

項目欧州米国
主な国ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどカリフォルニア、テキサス、コロラドなど
導入開始2004年(ドイツ)2015年~(NREL主導)
拡大要因気候変動対策、REPowerEU計画、エネルギー自立気候変動政策、インフラ投資法、インフレ抑制法
主な作物・用途ブドウ、ハーブ、羊放牧、有機作物羊放牧、野草育成、生物多様性保全
支援制度の有無EU共通農業政策(CAP)などあり州レベルで支援(例:SMARTプログラム)
法制度の整備フランス:営農型のみ許可、ドイツ:DIN規格など州ごとに異なる(全国統一法なし)
発電出力の規模20MW以上が多い、大規模事例多数150MW以上の超大規模もあり
注目事例ドイツのTützpatz(76MW)、フランスのBlueberry(29MW)などCA州のTopaz(752MW)、TX州のJuno(412MW)など

日本の営農型太陽光発電が抱える課題とは

欧米で急速に拡大する営農型太陽光発電に対して、日本ではなぜ導入が進みにくいのでしょうか。ここでは、制度的・構造的な要因を解説し、今後求められる対応について考察します。

日本では、営農型太陽光発電の導入には「農地法」による一時転用許可が必要です。

この制度自体は整備されつつありますが、転用期間の制限や地域ごとの裁量が大きく、全国での導入にはばらつきがあります。

さらに、2024年に農地法施行規則によって明文化されたものの、フランスのように法的に営農型のみを許可する形までは整っていません。

制度面の不透明さが、農家や発電事業者の参入障壁となっているのが実情です。

今後は明確な推進法の整備と、自治体間の運用格差の是正が求められます。

②小規模化の現状とその理由

農林水産省によると、2022年度時点での営農型太陽光発電の導入件数は5,341件。

しかし、その平均面積は23a(アール)と非常に小規模で、出力も数十kWに留まっている状況です。

主な理由は、初期投資が高額であることと補助金制度の未整備、そして小規模農家が多い日本の農業構造にあります。

また、自治体によっては慎重な姿勢を取るところも多く、地域による「導入格差」も課題となっています。

スケール化には、初期費用支援や発電事業者との連携を促す制度の強化が必要です。

③一般農家と大企業に求められる視点

一般農家にとって、営農型太陽光発電は「副収入の柱」として期待される一方で、維持管理や制度対応の負担が大きいのが現実です。

一方、大企業が農業に参入する場合、CSRや脱炭素経営の一環として注目され始めています。

農業とエネルギーの知見を融合できる企業の存在が、こうしたギャップを埋める鍵になります。

農家と企業のマッチングを支援する仕組みづくりが、今後の導入加速には不可欠です。

そのためには「営農×発電」という視点を持った中間支援組織の育成が重要となるでしょう。

④欧米との構造的な違い

欧米では、農地が広大かつ法人所有が一般的であるため、大規模で安定した投資が可能です。

これに対して日本では、農地の分散化や高齢化の進行、地権者の多様性などから、プロジェクトの統合や実行に多くのハードルがあります。

また、営農と発電の両立という概念がまだ社会的に浸透していないことも、推進力の不足に繋がっています。

海外事例を単純に導入するのではなく、「日本型アグリソーラー」として地域に根ざした設計が求められるのです。

構造的な課題にどう向き合うかが、日本における普及拡大の鍵となるでしょう。

有機・碾茶・抹茶と営農型太陽光発電の相性

ここでは、日本が世界に誇るお茶産業、特に有機農法や碾茶・抹茶栽培との相性に焦点を当て、営農型太陽光発電が持つ可能性を考察します。

①碾茶や抹茶に求められる遮光環境

碾茶とは、抹茶の原料となる茶葉であり、栽培過程で20日〜30日間以上の遮光工程を必要とします。

適切な遮光によって旨味成分であるアミノ酸(テアニン)が増加し、苦味成分であるカテキンの生成が抑えられます。

営農型太陽光発電のパネルは、適度な日照調整を可能にし、自然遮光としての役割を果たすことが可能です。

また、一般的には寒冷紗などを直接被覆したり専用の被覆棚を用意したりする必要がありましたが、太陽光発電の架台を被覆棚として兼用することでコスト削減と環境負荷低減にもつながります。

抹茶の高品質化と、エネルギー生産の両立が可能な新しい栽培スタイルといえるでしょう。

②有機栽培に活かせる設備と環境制御

有機農業では、化学肥料や農薬を使用せず、自然のバランスを活かした栽培が求められます。

営農型太陽光発電の構造物は、雨水の集水設備や風除け設備を組み込みやすく、環境制御がしやすいのが特徴です。

さらに、部分的に自然な陰を作ることで、害虫の発生や雑草の生育まで抑制できる可能性があります。

結果として、有機茶の栽培環境に合致し、収穫の安定化と品質向上に寄与できるのです。

③蒸散抑制や温度制御による品質向上

近年、日本でも猛暑による茶樹のダメージと品質低下が問題となっています。

営農型太陽光発電のパネル下では、気温が2~5℃低下するという調査もあり、暑熱から茶樹を保護できます。

放射冷却を防ぐこともできるため、防霜ファン無しでも凍霜害を防ぐことができるのは大きな強みです。

また、雨水の流路設計や土壌浸透性の確保により、水管理の最適化も進むと考えられます。

こうした制御性は、特に高級茶を生産する茶園において有利に働くでしょう。

④TEA ENERGYが描く新たな茶園モデル

TEA ENERGYでは、こうした機能性を備えた茶園モデルを構想・提供しています。

従来の茶畑に支柱とパネルを設置し、発電と遮光、環境制御を同時に行う「アグリソーラー茶園」がその一例です。

特に、煎茶から碾茶へと品種転換を図る農家に対し、遮光インフラの代替としての導入支援を進めています。

さらに、有機JAS認証やGAP対応にも配慮した設計により、輸出対応型のスマート茶園モデルも展開可能です。

こうした取り組みは、日本茶のブランド価値を高め、持続可能な栽培の普及にも貢献していくでしょう。

脱炭素社会に向けた企業の農業参入と可能性

この章では、カーボンニュートラルやESG投資が加速する中で、企業が営農型太陽光発電を通じて農業にどのように関われるのかを紐解いていきます。

①脱炭素経営と農業投資の親和性

企業の間では「Scope3」対応やRE100、グリーン電力の調達など、脱炭素への取り組みが求められています。

農地を活用した太陽光発電は、自社で再エネを生産・供給できる手段として注目され、農業との親和性が高い分野です。

特に、日本では農地に直接アクセスできるケースが少なく、発電設備の導入には農家との連携が不可欠です。

このため、農業支援と脱炭素経営の両立が可能な“社会貢献型投資”として位置づけられます。

営農型太陽光発電は、単なる電源調達を超えた戦略的な投資先といえるでしょう。

②営農型発電がCSRとSDGsに貢献する理由

企業が営農型太陽光発電を導入することで、持続可能な開発目標(SDGs)の複数のターゲットに貢献できます。

具体的に該当する項目は、「目標7:クリーンエネルギー」「目標12:持続可能な消費と生産」「目標13:気候変動対策」などです。

また、地域農家との協働を通じて「目標8:働きがいと経済成長」や「目標11:持続可能なまちづくり」にも波及効果が期待できます。

CSR(企業の社会的責任)活動の一環として評価され、投資家からの評価も向上するでしょう。

企業のESG戦略と営農型太陽光発電は、親和性が非常に高いのです。

③環境配慮型ブランド構築の事例

近年では、脱炭素型ブランドとしての価値訴求が消費者に響く時代となりました。

例えば、営農型太陽光発電を活用した「再エネ茶」や「脱炭素米」など、農作物自体に環境価値を付加することも大きな価値になると考えられます。

こうした商品は、百貨店や海外市場での評価も高くなるため、価格帯もプレミアム化しやすいことが強みです。

TEA ENERGYが構想する「営農型太陽光発電×有機碾茶」も、まさにこの流れの中にあります。

環境対応型ブランドこそが、これからの差別化と高付加価値化の鍵を握っているのです。

④企業・自治体連携によるモデル開発

営農型太陽光発電の導入には、農地利用の調整や地域住民の理解など、様々な課題がつきまといます。

そこで期待されるのが、企業と自治体、そして農家が連携して取り組む「公民連携型モデルプロジェクト」です。

例えば、自治体が農地整備や規制緩和を担い、企業が設備投資を行い、農家が栽培管理を担う三位一体のスキームが理想的です。

こうしたプロジェクトは地域の活性化にも寄与し、再生可能エネルギーの地産地消にもつながります。

脱炭素と地域振興の同時実現ができる、先進的な取組として注目されています。

TEA ENERGYが目指す営農型太陽光発電の未来

TEA ENERGY株式会社は、再生可能エネルギーと農業の融合という挑戦に真正面から取り組む企業です。この章では、同社が描く未来像と、日本型アグリソーラーの可能性を探っていきます。

①お茶農家との共創による導入支援

TEA ENERGYは、単なる発電設備の設置企業ではありません。

碾茶・抹茶の生産者と連携し、遮光や気候制御といった農業的課題の解決も見据えた設備設計を行っています。

特に煎茶から碾茶への転換を検討している農家に対し、遮光設備と太陽光発電の一体化提案を行っており、導入ハードルの低下にも貢献していることが特徴です。

また、有機JAS取得支援や補助金情報の提供など、事業面の伴走支援も行っており、現場視点のきめ細やかな対応が評価されています。

共創による持続可能なモデル構築が、同社の最大の強みです。

②地域と連携した再エネと農業の両立

営農型太陽光発電の成功には、地域全体の理解と巻き込みが不可欠です。

TEA ENERGYは、自治体やJA、地域金融機関とも連携し、地域ぐるみでの再エネ導入を推進しています。

農地活用の最適化に加え、地域内での電力供給や雇用創出にも波及効果をもたらします。

また、休耕地や耕作放棄地の再活用といった、地域課題の解決にも寄与するスキームを構築中です。

「エネルギーの地産地消」「農の復権」「地域経済の循環」を同時に実現する、ローカル再エネの最前線を切り拓いています。

③スマート農業との融合展望

同社は、営農型太陽光発電の“環境制御機能”を活かし、スマート農業との融合にも積極的です。

パネル下の環境データ(温度・湿度・照度など)をセンシングし、AIやIoTで可視化・最適化する農場管理システムを構想しています。

将来的には遮光調整や潅水制御の自動化、省力化が可能となり、特に高齢農家の省人化ニーズに応えるモデルになると考えています。

現在、様々な農業分野で発電電力を活用した自家消費やスマート灌漑装置への供給など、エネルギー×ICT農業の具現化が進んでいる状況です。

データと電力の融合は、次世代農業の鍵を握るといえるでしょう。

④日本における営農型太陽光発電の可能性

海外の事例をそのまま導入するだけでは、日本の農業にはフィットしません。

TEA ENERGYでは、日本の農業構造や地域特性、気候条件に合わせた営農型太陽光発電の確立を目指しています。

狭小地向けのモジュール設計、多様な作物対応、傾斜地・中山間地域への展開モデルなどが一例です。

さらに、農業者・企業・自治体の三位一体による「共創型プロジェクト」の全国展開も視野に入れています。

営農型太陽光発電は、単なる技術ではなく、「地域と地球をつなぐ社会基盤」としての役割を果たし始めているのです。


本記事では、野村證券による調査レポートをもとに、欧米における営農型太陽光発電の動向を詳しくご紹介しました。

欧州では政策や法制度の後押しを受け、農業と再生可能エネルギーの共生が急速に進み、米国でも地域特性を活かした柔軟なモデルが台頭しています。

対して日本では、法制度の未整備や農業構造の制約などにより、いまだスケール化が進んでいないのが現状です。

しかし、碾茶や有機栽培など、営農型太陽光発電との親和性が高い作物や農法があることもまた事実です。

TEA ENERGYをはじめとした先進企業の取り組みは、そうした相性の良さを活かしながら、日本型の持続可能な農業モデルを形づくろうとしています。

営農型太陽光発電は、単なる電力供給手段ではなく、地域と農業の未来を支える社会インフラへと進化しつつあります。

脱炭素社会を見据えた時代の選択肢として、今こそその意義と可能性を見直すときです。

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